2017年06月21日

「虐殺器官」伊藤計劃

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時代は近未来。
クラヴィス・シェパードは暗殺専門のアメリカの特殊部隊に所属する大尉です。
戦闘のためのハイテク機器を装備し、平静を保つための戦闘適応感情調整を行い、殺戮のための機械として現場に赴きます。
9・11以降、先進諸国では徹底した管理体制が敷かれテロを封じ込めているものの、後進諸国では内戦や大量虐殺が多発。
その陰に浮かび上がってきたジョン・ポールという謎のアメリカ人。
彼の行く先々では必ず大量の虐殺が起きているのです。
クラヴィスたちは次のターゲットとしてジョンを追います・・・・。
タイトルからしておどろおどろしいハードな内容かと思いましたが、そうでもなかったですね。
それはおそらく主人公が『ぼく』として一人称で語るせいでもあるでしょう。
読んでいて当たりがやわらかい。
そして完璧な殺戮マシーンなどではなく、つねに内面の弱さや葛藤を吐露しているんですね。
このあたりの設定が人間的ともいえますし女々しいともいえ、決してヒーロー的な強さを身に付けた主人公ではないところがこの作品の特徴でもあるでしょう。
私的にはそのあたりちょっとウンザリし、主人公の自己中心的な部分が嫌になりましたけどね。
ルツィアにのめり込んでウィリアムズを裏切ったり。
こんな男は許せません。(笑)
さてタイトルの「虐殺器官」ですが、なぜ「機関」ではなく「器官」なのか。
ここにも作者の問題提起があります。
SFファンの中ではかなり評価の高い作品のようですが、私はさほど・・・・。
タグ:小説
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2017年06月19日

「オーシャントラウトと塩昆布」和久田哲也

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最近はいろんな料理人や料理研究家が毎日のようにテレビや雑誌に登場し、芸能人並みに顔を知られるようになった人も多数いらっしゃいます。
そういう意味ではこの本の著者である和久田哲也氏は、一般的にはさほど知られていないかもしれません。
ですが、アラン・デュカス、フェラン・アドリアと並んで世界3大シェフに選ばれたこともあるほどの料理人です。
1987年シドニーに「TETSUYA’S」を開店し、たちまち予約の取れないレストランに。
オーストラリアの素材に和のエッセンスを取り入れた料理で世界の食通たちを唸らせてきました。
そんな料理人が自身の経歴について、料理について存分に語っておられます・・・・。
調理師学校にも行かず、あちこちの有名店を渡り歩いて修業したわけでもなく、ほぼ独学で勉強されたというのがすごい。
著者の持って生まれた料理のセンスはもちろんでしょうが、オーストラリアという土地柄や時代も大きく味方したと思われます。
さてタイトルの「オーシャントラウトと塩昆布」ですが、なんのこっちゃと思われる人もいるでしょう。
これは著者のスペシャリテである「オーシャントラウトのコンフィ」のことです。
コンフィしたオーシャントラウトの切り身の上に細かく刻んだ塩昆布をまぶしてある料理です。
でもこの塩昆布、いったいどのような商品を使っているのかが私は気になるのですが。
店で年間数百キロの単位で使うそうなのですが、そうなるともちろん大量生産の市販品ですよね。
あの商品の旨味というのはほぼ化学調味料のおかげだと思うのですが、もしかしてそんなのを使っておられるんでしょうか。
私は別に化調に対して神経質になる者ではありませんし、大衆店ならそりゃ使うだろうなと容認しています。
しかしさすがにこのクラスのレストランでそういうのを使っているのだとしたら、ちょっとそれは違うんじゃないんかと思うんですけどね。
もちろんそのような一般的なものを使っているのではないと思いたいですが。
それはそれとしまして、著者の料理や経営に対してのはっきりとした考えを知ることができるいい一冊でした。
タグ:グルメ本
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2017年06月17日

「怖い絵」中野京子

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絵って怖いですよね。
有名な画家の絵なんか見てるとたいがい怖い。
「モナ・リザ」なんてめちゃくちゃ怖いじゃないですか。
それはこちらの受け取り方にもよるんでしょうけど。
てなことを昔から思っていたのですが、この本を読みまして「あ、やっぱり絵は怖いんだ」と。(笑)
こういう書き方をすると語弊がありますね。
すべての絵が怖いのではなく、怖い絵も間違いなくあるんだと。
それは見る者を怖がらせる目的で描かれたものではないにもかかわらず、こちらがその絵に込められた物語を読み取り、それに対して恐怖を感じるということです。
あるいは理屈ではなく感覚的に怖いなと。
で、この本にはそのような怖い絵が何点も紹介されています。
まず表紙に使われているラ・トゥールの「いかさま師」。
これはもう、ストレートに見た目が怖い。(笑)
この女達の目よ。
ゾクッとします。
そして絵に込められた物語もやはり怖いんですよね。
この表紙ではカットされていますが、左右に人物がいます。
左にはいかさま師の男、右には若者。
ギャンブルでさんざん勝たせてやった若者を、3人がかりでさてこれから身ぐるみ剥いでやろうというその瞬間です。
若者のこの後の惨状はいかに。
他、ドガの「エトワール、または舞台の踊り子」という、この絵の何が怖いの? と思えるような作品も紹介されています。
著者の解説を読みますと・・・・。
私などはまったく絵を見る目も教養もないもので、このような解説書は誠にありがたいです
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2017年06月15日

「さいはての彼女」原田マハ

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表題作他3編収録。
鈴木涼香は25歳で会社を起こし、10年経った今は社員100人を抱え六本木ヒルズに本社を構える社長です。
IT企業の若きイケメン社長と恋をしのめり込んだものの、浮気を警戒して監視しすぎ、気配があるとすぐにキレ、そのキレ癖が怖いと逃げられてしまいました。
失恋を癒すために仕事に没頭してキレ癖はいっそうひどくなり、有能な秘書や重要なスタッフにも去られてしまいます。
秘書に最後の仕事として沖縄での夏のバカンスを手配させるのですが、なぜか着いた先は北海道の女満別。
そこでハーレーに乗る凪という若い女の子と出会うことになり・・・・。
仕事バリバリのキャリアウーマンがまったく別世界の人たちや景色と出会い、だんだんと心が癒されほぐされていく様が描かれています。
ちょっとラノベっぽい甘さもありますけど、清々しい読後感です。(さいはての彼女)
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」もやはり女性の一人旅の話。
一緒に旅行できなかった友人と旅先からメールのやり取りをしつつ、自分を見つめなおし新たに視界が開けていきます。
「冬空のクレーン」も表題作と同じくキャリアな女性が主人公。
都市開発の会社で課長補佐を務め、1000万近い年収がある35歳の志保。
会議の席上で男性の部下を叱ったところ突如部下は大声で泣きだし、会議室を出ていきます。
その後彼は会社を休み、名誉棄損で会社を訴えると弁護士を通じて連絡してきたのです。
課長からは会社のために謝ってくれといわれ、社長直々にも咎められます。
頭にきた志保は、自分が折れるいわれはないと1ヶ月の有給休暇を会社に送りつけ、釧路に旅行に出かけます。
自分がいなければさぞかし仕事も大変なことになっているだろうと思いきや、メールも携帯も静まり返ったまま。
逆に不安になった志保は同僚に電話してみるのですが、たいした影響もなく仕事は動いています。
自分は大きなプロジェクトを動かしている重要な歯車だと思っていたのですが、抜けたところでいくらでも代用のあるネジだったことに気づきます・・・・。
これもまあ自然の景色の中で自分を見つめ直す物語ですね。
最後の「風を止めないで」は「さいはての彼女」に出てきた凪の母親の物語。
亡くなった凪の父親や子供の頃の凪を読みつつ、夫婦や親子の愛がじんわりと染み入ります。
新しい1歩を踏み出す女性たちを描いた短編集、といったところでしょうか。
タグ:小説
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2017年06月13日

「マンガの遺伝子」斎藤宣彦

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マンガに「モノサシ」を当てて検証してみようというのが本書の趣旨です。
なんだかよくわからない表現ですが、まあそれぞれテーマ別にマンガの変遷を追ってみようといった感じでしょうか。
第一章なら野球マンガ。
第二章ではそんな中で魔球についていろいろと。
最初に出てくるのは井上一雄の「バット君」。
そしてあだち充の「タッチ」まで。
第三章は「ギャグ」です。
やはり赤塚不二夫を語らないわけにはいきません。
第四章は「速度」。
車のスピード感の描写など。
手塚治虫「新寶島」の冒頭は語り草です。
今となってはなんとも思えませんが。
ジャンルとしては第七章で「料理マンガ」を取り上げておられます。
いまや完全にひとつのジャンルとして定着しましたもんね。
猫も杓子も的なところが無きにしも非ずですが。
最後の第九章では「マンガ家マンガ」について。
その通りマンガ家を描いたマンガですね。
古くは永島慎二の「漫画家残酷物語」。
藤子不二雄の「まんが道」はまさしくその王道でしょう。
相原コージ・竹熊健太郎の「サルでも描けるまんが教室」などは、業界の裏話やパロディも盛り込んだマニア受け必至な内容。
ざっくりとですが、昔から現在まで、テーマ別にマンガの歴史がわかる一冊となっています。
タグ:漫画本
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