2011年07月26日

「忌中」車谷長吉

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短編集です。

表題作の「忌中」は体の不自由な妻を抱えた67歳の男が妻を殺し自分も死のうとするのですが、死に切れません。

妻の死体を箱に詰め込み押入れにしまい、どうせ返すつもりもないとサラ金から借金をしまくり、マッサージ嬢に貢ぎます。

箱の中で腐乱していく妻の死体を時々覗き見る男。

やがて男も自ら命を絶ちます。

「警察の方へ。/奥の茶箱の中に妻の死体があります。私の死体ともども、よろしく処分をお願いいたします。私には借金があります。菅井修治。」と記した紙の表に大きく「忌中」と書き、玄関のガラス戸に貼り付け、家の中で首を吊るのです。

「三笠山」は事業で借金を抱えた一家の無理心中の話です。

眠った2人の子供を絞め殺し、夫婦は車に排気ガスを引き込んで心中します。

これも遺書が切ない。

「警察の方へ。/奈良今御門町の采女ホテルに二人の子供が死んでいます。それは私たちの子です。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします。/吉兼田彦。/蘆江。」

なんとも救いのない話です。

しかし結末に救いはないのですが、夫婦の愛が最後まで貫かれているのがこれらの作品の無残な中の美しさでしょう。

「忌中」で妻を殺した男はマッサージ嬢に入れあげますが、そこに愛などはまったくありません。

男の心はあくまでも時折箱の中を覗き、腐乱していく妻にあるのです。

「三笠山」にしても夫婦はお互いいっしょになれてよかったことを確認しあい、死ぬ前に何度もまぐわいます。

解説で「これは、純愛小説なのではないのだろうか。」と書かれていますが、私もまさしくと思いました。

身も蓋もないほどの人間の業を書く作家、車谷長吉が書く純愛は壮絶です。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 20:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 『く』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする