2011年11月10日

「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午

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主人公の成瀬将虎は自称「何でもやってやろう屋」。

いろんなことに首を突っ込みたいキャラなんですね。

そんな成瀬が通っているフィットネスクラブの常連客から、悪徳商法の調査を依頼されます。

そしてたまたま地下鉄のホームで飛び降り自殺する女性を目の当たりにし、その女性を救います。

悪徳商法の調査、そして自殺未遂の女性こと麻宮さくらとの付き合いが話の柱となります。

成瀬の過去も挟んだりしつつ。

それでまあ話はなんやかんやと進んでいきまして、それぞれの謎が結びつき解けていくのですが・・・・。

最後に読者を「えっ」と思わせる種明かしがあります。

その仕掛けがたぶんこの作品の評価を高めていると思うのですが、話自体はそれほどどうということもないんですよね。

作者はこの仕掛けありきでたぶん話を作られたのでしょう。

なので細かい所にもきっちりとそのための伏線を張っておられます。

途中に探偵から暴力団の一員になった過去のエピソード挟むあたり、上手く機能していると思います。

ですが、読み終わってじゃあなんなのと。

水準以上の読み応えはあったと思いますが、印象に残りません。

そんな仕掛けをしなくてもストレートに書けばいいではないかと私は思うのです。

もしそうなら話題作にはならなかったでしょうけども。

でも種明かしを読んで、だからどうなの? ということです。

ただ単に読者をあっと言わせてやっただけの話です。

それで「ああ、やられたなぁ」なんて満足できる読者はいいですけども。

仕掛けがバレないよう気を使う必要があるので、どうしても登場人物を深く描ききれていない気がします。

私が印象が弱いと感じたのはそこかもしれません。

タイトルは秀逸。

このタイトルこの設定で大層な仕掛けなどせず、もっとがっぷりとした内容を書けばまた違ったいい味わいになったのではと思います。

なんてことを言ったらこの小説の意味がないか。(笑)

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 05:04| Comment(0) | TrackBack(1) | 『う』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月08日

「寿司屋のかみさんのちょっと箸休め」佐川芳枝

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佐川芳枝氏の「寿司屋のかみさん」シリーズ。

現役の寿司屋のおかみさんが書いておられるエッセイです。

これが何作目になるのかわかりませんが、それまでの著作は店でのいろんなエピソードについて書かれたもの。

本作はそのようなエピソードを交えながら、サブタイトルにもあるように寿司屋(もちろんご自分の店です)のつまみを紹介しようという内容です。

なので巻末にはレシピ集もあります。

寿司屋ならではのつまみについて、それにまつわる苦労話、コツなどを書いておられます。

目線が街中の寿司屋を利用するお客さんと同じなのがいいんですね。

決して高級店の職人のそれではありません。

それはやはり主婦感覚があるからでしよう。

上から目線でないのにほっと安らぐんです。

ただちょっと物言いを。(笑)

他店で穴子を頼んだらキュウリのかわりにワカメが添えられていてびっくりしたとのこと。

煮穴子との相性がよくなかったので、ワカメはそっくり残したと書しておられます。

飲食をやっておられるのなら出したものを残されるのはいい気持ちがしないはず。

海原雄山じゃあるまいし(笑)、相性がどうのという理由で残すことはないでしょう。

添え物で出されているのですからそれぞれ別に食べればいいじゃないですか。

友人と旅行に出かけ、カツオを1本おみやげにもらってきたと。

脂があまりなく、おろしても美味しくなさそうだったので蒸してなまりにしようとしてみたら、カツオ節のようにきゅっと縮まってしまったと。

これではどう手をかけても美味しくならないだろうと処分したというのです。

それほどどうにもならなかったのでしょうか。

腐っていたわけじゃあるまいし、カツオ君、哀れです。

こういうことは書かれないほうがいいかと思いますが。

ラベル:グルメ本
posted by たろちゃん at 04:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 『さ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月06日

「玉手箱」小手鞠るい

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デビュー作を含む短編三編を収録。

「卵を忘れたカナリヤ」は子供を望みながらも妊娠できない女性が主人公。

ひたすら不妊治療を受けるのですが、その虚しさが描かれています。

表題作の「玉手箱」は「卵を忘れたカナリヤ」の連作とも読めます。

登場人物は別人ですが、不妊治療や人工授精も効果がなく、ついには代理出産で子供を授かります。

代理母と会うことを避けていた主人公ですが、頻繁に手紙を受取り、来るのが無理ならこちらから会いにいくとまでいわれ、重い腰をあげるのです。

しかし代理母の意図は、代理で産んで情が移った子供を引き取ること。

子供は二人の母を前にしてどのような反応を見せるのか・・・・。

デビュー作の「おとぎ話」はそれらとちょっと路線が違い、アメリカ人の男性と結婚してアメリカに住む女性の話。

主人公が友人のアメリカ人夫婦の夫や妻と関係を持つ様が描かれています。

どれも女性の視点ならではの作品です。

男性作家にこれは書けないでしょう。

子供を産む産まないというのは女性にとって大きな選択肢。

最初から産まないことを選択する人もいますし、産むことを選択しても授からない人もいます。

世間の風潮は結婚したからにはやはり出産という雰囲気があります。

子供を産まない(産めない)からといって、それは女性として間違っているとか劣っているということには決してならないはず。

そんなジレンマとの戦いが作者の経験もあってひりひりと表現されています。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 19:09| Comment(1) | TrackBack(0) | 『こ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月04日

「二度殺された女」ドロシー・ユーナック

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ニューヨークの平和な中流住宅街で起きた通り魔殺人事件。

殺されたのは若い女性です。

女性が襲われたときは当然騒ぎがあったわけで、そんな騒ぎに何事かと近所の住民は自分たちの部屋から事件を目撃しているのです。

目撃しているのですが、誰も助けようとせず警察に通報もしませんでした。

被害者の死因は刃物でめちゃくちゃに切られたことによる失血死。

騒ぎに気付いた住民がすぐに警察に通報すれば、もしかしたら助かっていたかもしれないのです。

そんな事件を追うのが担当の女性刑事ミランダ・トレス。

そして事件そのものよりも見て見ぬふりをした住民たちに興味を示すコラムニストのマイク・スタイン。

マイクは住民たちの無責任ぶりを新聞のコラムや本で告発するべく、着々と準備を進めます。

ミランダも捜査を進めていくのですが、ラスト100ページ、話は意外な方向に展開します・・・・。

この本を購入したきっかけは、作家の藤沢周平氏がインタビューの中で最近読んだ本で面白かったものとして興奮気味に語っておられたとのことで。

藤沢周平氏といえばミステリーがお好きなことで知られていましたが、時代小説の大家を興奮させるほどのミステリーとはどんなものかと。

私にとってはそれほどとも思えませんでしたが、しかし犯人が誰でなんのためにとかの謎解きよりも、住民の無関心さというものにこだわった内容はよかったと思います。

そしてミランダの正義感やマイクのエゴイズムなど。

ちなみにたまたまなのですが、この本を読み終わったあと産経新聞のコラムである事件が紹介されていました。

1964年にニューヨークで起きた事件なのですが、この小説とまったく同じ内容なんですね。

「キティ・ジェノヴィーズ事件」と呼ばれているそれは、ナイフで襲われる女性の模様を目撃したり叫び声を聞いたりしていたにもかかわらず、住民たちは誰一人として救出も通報もしなかったそうです。

間違いなく作者はその事件をモチーフにしているものと思われます。

というかそのまんまですよね。

ただそうならば、ひとことそのような記述があってもいいのではと思いました。

ラベル:海外小説
posted by たろちゃん at 05:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 『と』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月02日

「メニューの設計図」高橋徳男

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著者は有楽町「アピシウス」の元料理長。

「アピシウス」といえば日本フランス料理界を代表するほどの店でしたよね。
(今はどうなのか知りません)

その後引退されてからやや間を置き、「パ・マル」というスープやパイの店を開かれたと記憶しております。

どこかで読んだのですが、「アピシウス」のシェフを引退されたあとサラリーマン的な仕事をされ(それでも飲食関係だったと思うのですが)、そのときにサラリーマンの昼食というのはなんと侘しいものかと思い知り、それでは自分がまともな食事を提供しようというようなきっかけでまた復活されたというような話だったと思います。
(あやふやな記憶なので間違っていたらすみません)

そんな名シェフ(2009年に逝去)の著書ですが、よくある料理人本とはちょっと違います。

普通料理人の本といえばたいがい自伝なんですよね。

出生から始まって、どんな子供だったか家庭環境だったか。

料理との出会い、料理界に入ったきっかけ。

国内外でどんな修行をしてきたか。

決まってこのパターンです。

あるいはレシピ紹介。

この本ではそのような生い立ちや修行時代の苦労話はほとんどなく、タイトルから察せられるようにシェフがいかにしてメニューを発想するかというような話がメインです。

意外とこのような料理人本はなく、面白い切り口だと思いました。

ラベル:グルメ本
posted by たろちゃん at 19:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 『た』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする