主人公の知寿は二十歳の女性。
高校教師をしている母親が中国に留学することになります。
一緒に中国に行くことを拒否し大学に進学することも拒否した知寿は、なんとか自分の力で生活していくことにするのですが。
それでやっかいになったのが、遠縁に当たる吟子さんという七十過ぎの老婆の家。
ここでのコミュニケーションを柱に、恋愛や親子の関係などが描かれています。
知寿の性格の悪さはいい設定でしょう。
というか、けっこう誰にもある本音なんですよね。
幸せにしている人にチクリと嫌味を言ってやりたいというような。
素直にストレートにそれが描かれているのはむしろ気持ちいい。
若い女性と老人のコミュニケーションというのは特に目新しい設定ではありません。
その設定でどういう味わいを出すかだと思うのですが、しかしそれも強い印象はありません。
恋愛に関してもありがちな軽い出会いと別れです。
それぞれにとことん深く突っ込んで書いていないところが最近の若い女性芥川賞作家なのかなぁという気がします。
アンニュイな雰囲気を漂わせ、軽くさらりと淡々と。
でもいくら純文学(?)とはいえ、私はもうちょっとぐっとくるものが欲しい。
これはこれで作品なのですが、芥川賞を授賞するほどでしょうか。
それなら黒野伸一の「万寿子さんの庭」に直木賞を授賞してもおかしくはないでしょう。
大人になったばかりの若い女性が人との別れを経るごとにちょっぴり成長していく物語。
そういう意味では現実離れしたドラマがあるわけでもなく、相応な内容なのかもしれません。
ラベル:小説