2012年07月20日

「水の中の犬」木内一裕

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主人公は元刑事の私立探偵。

その探偵の下に愛人の弟に死んで欲しいという願いを持ってある女がやってきます。

愛人の弟にレイプされ、それをネタに脅されているのだと。

しかしそのようなことに関しては何も役に立てないと断る探偵ですが、結局は関わりあうことになります。

実際にその弟という人物に会ってみるとろくでもない男です。

「お前を殺しすしかないな・・・・」

おもわずそう言ってしまった探偵ですが、逆に半殺しの目にあわされます。

もちろんその礼はしなければなりません。

しかし調査を進めるうちに意外な事実が判明します・・・・。

作者の第2作目の作品です。

3章に分けられていますが、それぞれ独立した話とも読める連作形式です。

第一話は1人称、第二話は3人称、そして第三話はまた1人称。

そしてエピローグは・・・・。

第二話では矢能という暴力団幹部が出てきます。

最初は敵対的な関係なのですが、やがて主人公といいコンビになりそうな気配になってきます。

しかし・・・・。

前作では漫画家から小説家への転向第1作ということでちょっと力が入りすぎではという感想を書きましたが、いやいや、そうではなくてこのテンションが作者の通常レベルなのかと。

とにかくひたすら緊迫した雰囲気を保っています。

元刑事の私立探偵という設定にしろ文体にしろかなりハードボイルドを意識していますが、しかし設定に頼らず主人公のキャラがいい。

小学生の女の子にもきっちりと敬語を使う律儀さ、どれだけ痛い目にあっても自分が納得いく答えを見つけるための行動力。

そんな主人公の一途さに思わず引き込まれてしまいます。

容赦のないバイオレンスあり、ちょっと心が温かくなるような小さなロマンスあり、ぐっと涙をこらえるような場面あり。

最後までひたすら読ませる1級のエンターテイメントでした。

堪能です。

もっと評価されるべき作家ですね、木内一裕。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 14:23| Comment(1) | TrackBack(0) | 『き』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月18日

「ぶっかけ飯の快感」小泉武夫

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ぶっかけ飯。

説明は不要でしょう、どんぶりめしに具材をぶっかけて食べるわけです。

しかしそこは味覚人飛行物体こと小泉センセイ、単純にかつ丼や天丼を紹介しておられるわけではありません。

センセイ曰く「BCD級グルメ」を紹介しておられるのです。

最初に紹介されるのがサバの水煮缶を使った丼です。

そのまま紹介しましょう。

『丼に熱いごはんを盛り、腹もを全部載せ、さらに缶に残った水煮汁をガバッと全部ぶっかけます。醤油をさっとかけ、一度ざっとかき回し、ガツガツと胃袋に送り込む。すると、ご飯の旨みと甘みに、サバ水煮缶の腹もから来る脂肪のコクと濃厚な味が重なり、そこに水煮の汁から来るサバ缶特有の甘い感じの生臭いにおいと、醤油のにおい、そしてご飯の快香が複雑に交錯して、あっという間に丼の中はすっからかん』

いやあたまりませんね。

私もさば水煮缶は大好きでして、これは素晴らしい食品だと思っています。

これをごはんにぶっかけて醤油でなんて。

そりゃさぞかし美味しいでしょう。

ちなみに文中の「腹も」というのは腹の白い脂身の部分。

それだけを取り出して丼に使うわけですが、1缶にそんなに量があるかなぁと思います。

まあ2缶使ってもいいわけですけど。

でも別に腹身だけにこだわらず全て使えば1缶でじゅうぶん丼1杯の具になります。

とまあそんな調子で、ひたすら「BCD級グルメ」を紹介しておられます。

食通を自認する人からすれば苦笑ものかもしれません。

でも私は大いに支持しますね。

流行店の追っかけはもういい。

こんな店でこんなの食べました自慢もうんざり。

そんなことよりもこういうのに喜びを発見したい。

なにより単純にこういうのが美味しいと思う自分がいませんか?(笑)

ラベル:グルメ本
posted by たろちゃん at 04:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 『こ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月16日

「想い雲 みをつくし料理帖」高田郁

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シリーズ3冊目となり新しい登場人物も出てきます。

戯作者・清右衛門が連れてきた版元の坂村堂です。

食道楽の坂村堂は澪の料理をとても気に入り、雇っている上方出身の料理人にこの味を覚えさせたいというのです。

やってきた料理人はなんと行方不明になっている天満一兆庵の若旦那・佐兵衛と一緒に働いていた富三でした。

佐兵衛の行方を訊いてみると驚くような話が・・・・。

いつもながらいいですねぇ。

4章に分かれており、それぞれ紹介されている料理は「う」尽くし、ふっくら鱧の葛叩き、ふわり菊花雪、こんがり焼き柿。

澪が作る料理やそれをいただく人たちの描写がとてもいい。

料理小説としてじゅうぶん楽しめるのはもちろん、そこに人情や淡い恋愛、幼馴染みの野江との邂逅、若旦那・佐兵衛の行方などいろんな要素が盛られています。

それぞれの人物が魅力的で話の作り方がすごく巧いですね。

とても楽しみに読んでいるシリーズです。

posted by たろちゃん at 03:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 『た』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月14日

「暗渠の宿」西村賢太

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表題作他1編収録。

まず最初の「けがれなき酒のへど」はデビュー作。

ひたすら普通の彼女が欲しいと願う主人公。

私小説ですのでもちろん作者がモデルです。

せっせとフーゾクを利用し、そんな相手を求めます。

やっとこさソープランドで理想の女性を見つけ、下心を隠しつつ紳士ぶってせっせと献身するのですが、結局はまんまと利用され大金を巻き上げられてしまいます。

そんな主人公でありますが、ちゃんと女性と付き合い、同棲していたこともあるのです。

それを描いているのが表題作の「暗渠の宿」。

とにかくまあ彼女に対してわがままで暴力的で自己中心的なこと。

小説として読んでいるぶんには面白いのですが、実際にはこんな男たまったものではありません。

私小説というもののどこまでが事実かはわかりませんが。

さて、どうしてもこの作者と比較される作家に車谷長吉氏がいます。

私の感想としましては、なんといいますか味わいが違う。

味わいといいますか、襞の数が違う。

車谷氏のほうが味わい深く襞が多いと感じるんですね。

中上健次と比べますと通俗的すぎます。

自分を模索する深さが違う。

なんといいますか、私小説といえどもけっこうエンターテイメントしてるんですよね。

ある意味ギャグとしても読めます。

意識してかどうかはわかりませんけども。

でも時代もあり作者のルーツもあり、これが西村氏の作風。

比べること自体間違っているのかもしれません。

なんにせよ今後も読み続けていきたい作家です。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 02:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 『に』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月12日

「湯葉・隅田川・丸の内八号館」芝木好子

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作者の自伝的な三部作とのこと。

中でも作品的にはやはり「湯葉」が抜きん出ていると思います。

時代は明治。

湯葉屋の養女となった蕗は湯葉作りの楽しさを覚え、主人にも可愛がられます。

息子は結核を患っており、母親はその息子にやたらと甘い。

そんな息子と結婚させられる蕗。

やがて主人も亡くなり、夫はといえば家業にやるき気なく別宅に愛人までいる有様です。

蕗は女手で店を支えていきます・・・・。

「隅田川」、「丸の内八号館」は蕗の娘の秋津、その娘の恭子が主人公となります。

どれも親と子、時代を背景とした女性の生き方が描かれています。

が、「隅田川」では秋津の夫であり趣味人である菊良の生き様がよかったです。

「丸の内八号館」では時代も内容も現代的になり、私には前の二作とくらべると小説としての魅力は薄く感じられました。

やはり芝木氏は新しい時代やOLを扱った作品よりも、古い時代や芸能、美術などを扱った作品のほうが味わいあると思います。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 04:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 『し』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする