2012年09月09日

「海炭市叙景」佐藤泰志

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海炭市という架空の街を舞台にした短編集。

第一章では連作短編風になっていますが、第二章ではそれぞれの作品に繋がりはありません。

海炭市というのは中途半端に都会であり田舎です。

どんどん開発が進み、昔ながらの風景が失われていく街です。

そんな街で生活する市井の人々さまざまな人生。

いろんな職業の人たちがモチーフにされています。

どれもあまり明るい話ではありません。

海炭市というのは作者の故郷である函館をモデルにしておられるようで。

そんな街で季節の移ろいとともにいろんな人たちの人生を描いてこられたわけですが、この作品に収められている季節は秋と冬。

寒い街では厳しい季節です。

このあと季節を春や夏を舞台にしてという構想があったようですが、実現しないままに作者は41歳という若さで自殺。

芥川賞に5回も候補となった才能が失われてしまいました。

ぜひ暖かい季節を舞台にしたこの街の作品を読みたかった。

雰囲気としてはちょっと立松和平を思わせますか。

土着的な作風がそう思わせるのかも。

男女のやりとりなんかは佐藤正午の雰囲気があったりして。

実に味わい深い作品群でした。

ラベル:小説
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2012年09月07日

「居酒屋かもめ唄」太田和彦

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いつもながら日本全国を飲み歩いておられる太田氏。

今回も北は北海道から南は九州まで。

時間的にも経済的にも仕事だからできることでありましょうが、なにより居酒屋に対する愛情がありませんとね。

このあたり太田氏は決して酒に溺れてはおられません。

ただ飲み歩いてあの土地行ったこの店入ったではないのです。

こんな酒飲んだぞーではないのです。

そんな飲み歩き自慢はネットに溢れるミーハー連中に任せておけばよろしい。

太田氏はさりげなく訪れた町に溶け込み、地元の人たちとコミュニケーションし、文化に触れ人情に触れ。

そのあたりをしっかりと文章で伝えておられます。

これが味わい深く、氏の著作の魅力といえます。

そして余所者としての自覚もお持ちなんですね。

このあたりの距離感に紳士を感じるのです。

店や地元の人々に対する敬意があります。

氏の著作は今まで何冊も読みましたが、本作がいちばん良く感じました。

ラベル:グルメ本
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2012年09月05日

「人のセックスを笑うな」山崎ナオコーラ

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主人公は美術専門学校の学生で19歳。

その学校の講師である39歳のユリと付き合っています。

もちろんセックスもする関係です。

ある日、突如ユリは勤めている学校を辞めます。

夫とミャンマーに1ヶ月旅行にいくとのこと。

それをきっかけに二人は会うこともなくなります・・・・。

主人公の視点からすれば、ひとときの年上の女性との恋ですね。

これを女性の作者が書いておられるわけですが、かえってそれがいいバランスを醸しているように思えます。

なんといいますか、アニメで男の子の声を演じるのに男性よりも女性のほうがピタッとはまるような。

そして読み心地は軽い。

するするすると読める中に「いや、それだけではないな。でもそうなのかな」と思わせるものがあります。

タイトルもなるほどと思う気がしますし、なんじゃそりゃという気もします。

そしてペンネーム。

ナオコーラって。(笑)

なんともとらえどころがない作家ですね。

今後ちょっと追っかけてみましょう。

ラベル:小説
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2012年09月03日

「電話男」小林恭二

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電話でさまざまな人たちの話し相手をする「電話男」という人物たち。

話し相手というよりはひたすら聞き役です。

自分から電話を切ることも禁じられています。

1日中電話相手をしていますから運動不足で肥満。

それはいったいどのような人物たちなのか。

そして世間は彼らをどのように見たのか。

当時としてはなかなか面白いアイデアだったでしょうね。

84年の作品ですから、まだテレクラなんかもなかった頃でしょうか。

電話で人とのつながりを求める人たちを風刺しているわけですが、現在の現実ではそれがネットやメールに置き換えられています。

ただこの作品では話が性的なことに進まないのはあえて避けたのか、想像力が及ばなかったのか。

作品が発表された数年後には、テレクラや伝言ダイヤルなどが男女の出会いや売春の温床となりましたしね。

現実はまあそんなもんです。

もちろんそういうのがすべてではありませんけども。

なんにせよそのようなツールでコミュニケーションする現代人たちをシニカルに描いています。

ラベル:小説
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2012年09月01日

「熱帯感傷紀行 -アジア・センチメンタル・ロード-」中山可穂

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女性同士の恋愛を熱く描いておられる中山可穂。

そんな作家の初めてのエッセイです。

タイトルからわかりますように旅行記です。

失恋の傷心を胸に抱え、作家はどのような旅をしたのか。

好きな作家のエッセイというのはやはりいいですね。

小説が俳優でいえば舞台やカメラの前での姿だとしたら、エッセイは普段着の姿といったニュアンスがあります。

もちろん演出された普段着かもしれませんけども。

この本ではアジアを一人で旅した内容が書かれています。

いろんな苦労やらなんやら。

腹が立って思わず関西弁啖呵を切ってみたりりとか。

ひたすら値段を値切ってみたりとか。

寄り添ってくる男性に苦労したりとか。

そんなのを読んでいますと、なんとなく中山可穂という作家が身近に感じられて嬉しい。

さあ、今後はまた濃密な小説を楽しませていただきましょう。

ラベル:エッセイ
posted by たろちゃん at 04:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 『な』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする