小学5年生の見晴。
夏休みに発見したのが近所の鉄塔の『武蔵野線75-1』という番号札。
ということは、これを『1』まで遡って行けばなにがあるんだろう。
原子力発電所にたどりつけるのかも。
見晴は弟分のアキラを誘い、探検に出かけます。
はたして鉄塔の番号札『1』にたどり着けるのか、そこには原子力発電所があるのか。
少年の冒険が始まります・・・・。
いやあ、よくもまあこんな題材を小説にしましたね。
ノンフィクションノベルとでもいえばいいのか。
とにかくひたすら鉄塔を番号順に遡り、その鉄塔がどうであるかということを克明に記録しています。
鉄塔の形状に関して男性型だの女性型だの、腕金だの碍子連だの。
マニアにはともかく、一般人にはいやもうさっぱりです。
しかしそこは抜かりなく写真が添付されています。
ちなみにこれ、日本ファンタジー大賞の応募作ですよ。
たまたま下読みされたのが書評家の大森望氏。
氏によりますと、「今まで目にした数千本の応募作の中でインパクトはいちばん」だったとのこと。
原稿には生写真がたっぷり貼ってあったそうです。(笑)
たしかに写真がないと碍子連がどうのなんてさっぱりわかりません。
大森氏の手にいかなければ、もしかしたら世に出なかった作品かも。
とにかくひたすら武蔵野線の鉄塔を遡り、それぞれひとつずつにコメントがなされています。
これ、作者の取材(経験)も半端ではないと思います。
正直言いまして一般人にはちょっと退屈な小説ではありましょう。
でも少年の心理描写がリアルで見事なんですね。
実に巧い。
少年の好奇心、意地やプライド、言動、それらが瑞々しく心憎いほどに描写されています。
ちょっと退屈と書きましたが、第9章に入りまして状況は変わります。
冬の雪が春の陽射しで溶けていくような心地よさがあるのです。
この第9章を読むために辛抱して読者は主人公と一緒に長い長い旅をしてきたのかと。(笑)
これはたしかにファンタジーかも。