2013年03月11日

「地の果て 至上の時」中上健次

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前作の「枯木灘」で腹違いの弟の秀雄を殺した秋幸が3年の服役を終えて帰ってきます。

しかしそこにはもう路地はありませんでした。

蝿の糞の王こと父親の浜村龍造が消滅させてしまったのです。

秋幸は以前のように養父の竹原建設で土方をすることを選ばず、浜村龍造の経営する浜村木材で木を伐る仕事に就きます・・・・。

この作品は「岬」、「枯木灘」に続く秋幸3部作の最終巻にあたります。

心の拠り所である路地を失くした秋幸。

親子でありながら宿敵ともいえる龍造の下で仕事をしながらの日々を、複雑な人間関係を絡めて丹念にみっちりと描いています。

ただ「枯木灘」や番外編ともいえる「鳳仙花」などに比べると、まとまりのない感がぬぐえません。

読みにくい文章は相変わらずなのですが、本作ではそれがかなり行き過ぎている気がします。

作者自身気持ちが先走りしすぎて手綱を捌き切れていないような。

唐突な心理描写やセリフにはかなり戸惑いましたし。

しかし重量感のある小説でした。

作者は晩年「秋幸がまた自分の中で動きはじめている」みたいなことを言っていたようですが、もし作者が生きていれば路地と浜村龍造を失くした秋幸がこの後どのようになっていったのでしょうか。

ラベル:小説
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2013年03月09日

「セックスボランティア」河合香織

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なかなか触れられることがなく、タブー視さえされている感のある障害者の「性」。

著者はそんな世界に大胆に踏みこんでいきます。

各章ごとにそれぞれの障害者を取材しておられます。

第一章で紹介されている男性など酸素ボンベがなければ生きていけない身なのですが、楽しみにしている年に1回のソープランド通いではそのボンベをはずすというのです。

まさに命がけのセックスであり、健常者には計り知れない「性」に対しての渇望があるのですね。

なにしろ手もまともに動かすことができず、自慰さえできない人もいるのです。

風俗店にしてもすべての店が障害者を受け入れてくれるわけではありませんし。

この第一章の男性の恋愛話には涙が出ました。

障害者であるがゆえに成就しなかった恋。

二十年以上経った今でもその女性を想い続け、亡くなったその女性のお墓に手を合せにいきます。

もちろん男性だけではなく女性にも性欲はあります。

第四章では出張ホストを利用している女性が紹介されています。

恋する王子様だと。

そして障害者からの視点だけではなく、障害者に「性」を提供する側の人たちにも取材しておられます。

これこそが主題であるのですが。

自慰を介助する職員であったり、障害者専用風俗店のオーナーであったり、セックスの相手をするボランティアであったり。

オランダはセックスポランティアに関しては先進国だということで、現地にまで行って取材しておられる行動力がすごい。

このような取材を続ける中で、やはり「あなたは実際にセックスボランティアを経験したのか」という類の批判もあったようです。

本が出版されてからはなおさら。

しかし著者はあくまでライターという立場であり、自分が実際にそんな経験をすることにどんな意味があるのか、と答えられたそうです。

確かに自身が体を張っての経験によるルポというのもありです。

そういう人もおられます。

障害者がおられ、その人たちの「性」をボランティアする人たちがおられる。

それを客観的に外側から取材し、文章でルポタージュする。

ライターとして真っ当な行為でありましょう。

いい本でした。

しかし第一章には感動したなぁ・・・・。(涙)

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2013年03月07日

「なぜザ・プレミアムモルツは売れ続けるのか?」片山修

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「とりあえずビール」というくらいアルコールの中では人気があるビール。

日本のビールメーカーといえばキリン、アサヒ、サッポロが3大メーカーです。

そこに切り込んでいったのがサントリー。

しかし3社の牙城は固く、なんとサントリーは45年間もビール事業において赤字が続いていたんですね。

それを一躍黒字に転換させたのが『ザ・プレミアムモルツ』です。

しかもビール業界第3位に浮上。

3年連続『モンドセレクションビール部門最高金賞』受賞がそのきっかけとなったわけですが、もちろんそれは品質あってこそ。

しかし2012年にそんな人気商品を敢えてリバイタライズされます。

最高金賞受賞の味に留まることなく、さらに前進しようというのです。

それにはもちろん大きなリスクが伴います。

今までの味と違うといって消費者が離れてしまう可能性があるからです。

ですがより一層品質を向上させ、売り上げを伸ばしました。

そんな奇跡の商品の開発秘話が書かれています。

面白く読ませていただきました。

45年も赤字なんて普通の企業では考えられませんよね。

数年で撤退でしょう。

他の事業部で利益をまかなっているとはいえ。

「やってみなはれ」という創業者の鳥井信治郎氏の志、それを守り続けて現在に至る経営陣のモチベーション。

そして開発者や営業マンの努力。

普段気楽に飲んでいるビールですが、このようなドラマがあったんですね。

ラベル:グルメ本
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2013年03月05日

「本屋通いのビタミン剤」井狩春男

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著者は本の取次の会社に勤めておられます。

そんな立場からいろいろと出版事情に関して書いておられます。

「返品のない月曜日 ボクの取次日記」という前作の続編といえるかもしれません。

作家や編集者が書いた文章は多々ありますが、取次の社員という立場で書かれた本はこの著者しかないのでは。

やはり出版事情の裏話的な話になるわけですが、この業界に興味ある方はぜひご一読を。

といいましても初出1990年の内容ではありますが。

ラベル:本・書店
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2013年03月03日

「夏を喪くす」原田マハ

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中編4編を収録。

表題作は建築設計の会社を青柳という男と共同経営している咲子が主人公。

この夏で40歳になります。

夫が居ますが冷めた関係。

大物建築家の渡良瀬と不倫の関係を続けているのですが、情事のあとで渡良瀬が言います。

「なんだか、硬いね」

左の胸にしこりがあるというのです。

病院で検査してもらうとそれは乳癌でした。

乳房を切除しなくてはならないという深刻な問題を抱え、そこに冷めている夫との心のすれ違い、愛人の渡良瀬との関係、そして会社を共同経営する青柳の体の異変など、さまざまな問題を抱えることになります・・・・。

デビュー作の「カフーを待ちわびて」は癒し系の青春ラブストーリーでしたが、本作は中年女性を主人公にしたちょっとやりきれないような話です。

体の異変、夫や愛人との関係、仕事のパートナーのこと。

それら『暗』な内容を夏の沖縄という『明』なシチュエーションを背景にし、40歳という一区切り的な年齢を迎えた女性を描いています。

設定はビシッときてますよね。(笑)

他の収録作も同様にあまり明るい話ではありません。

ですがこういう人生の襞を分け入って描いたような小説が私はいいですね。

デビューが「ラブストーリー大賞」だけに軽く見られがちかもしれませんが、幅広く書かれる実力派の作家だと思います。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 03:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 『は』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする