2013年05月31日

5月の一冊

今月は以下の14冊でした。

・「ヒロカネ食堂 ヒロカネ式食文化論」弘兼憲史
・「終の住処」磯崎憲一郎
・「イニシエーション・ラブ」乾くるみ
・「闇の華たち」乙川優三郎
・「タイユバンの優雅な食卓」アンドリュー・トッドハンター
・「腦病院へまゐります。」若合春侑
・「料理人」ハリー・クレッシング
・「戻り川心中」連城三紀彦
・「勝手にふるえてろ」綿矢りさ
・「絶対音感」最相葉月
・「クライマーズ・ハイ」横山秀夫
・「ラ・パティスリー」上田早夕里
・「ウエンカムイの爪」熊谷達也
・「食味風々録」阿川弘之

「ヒロカネ食堂 ヒロカネ式食文化論」、ちょっと上から目線の説教臭さを感じました。

氏にはぜひマンガでグルメの世界を描いていただきたいです。

「終の住処」、シュールな内容でした。

私にとってはもひとつ良さがわからず。

「イニシエーション・ラブ」、ベタな恋愛小説のようで実は・・・・。

構成に感心しました。

「闇の華たち」、どの作品も明るくはなく悲哀があります。

でもそれが味わいあるんです。

「タイユバンの優雅な食卓」、ライターが実際に厨房に入って修行しての記録。

そして客の立場になって振り返るという面白い構成。

「料理人」、ラストの不気味なシュールさはなんなのでしょう。

いったい主人公はなにをしたかったのか・・・・。

「戻り川心中」、流麗で精緻な筆で男女の機微を描いておられます。

その筆にシビアな怖さもあるのです。

「勝手にふるえてろ」、この作者に関してはデビュー作からずっと世界の狭さを感じています。

もっと突き抜けた作品を読みたい気がするのです。

「絶対音感」、正直言いまして私には難しい内容でした。

しかし特別な才能を持つ人の話は実に興味深いです。

「クライマーズ・ハイ」、この事故を知る世代の最低ラインはいまや30代後半になるでしょうか。

新聞記者の視線で書かれたこの作品の息詰まる緊迫感は圧倒的です。

「ラ・パティスリー」、パティシエの世界を書いた小説なんて珍しいんじゃないでしょうか。

SF出身の作者ですが、ぜひこのジャンルでも活躍していただきたいです。

「ウエンカムイの爪」、デビュー作ということでやや緩い印象はあるものの、この後の「邂逅の森」に繋がる助走と考えれば。

西村寿行氏が生きておられれば、どのように評価されたのか、なんて考えました。

「食味風々録」、老作家の食エッセイ。

戦中の話は興味深く読ませていただきました。

さて、今月の一冊。

そうですねぇ、やはりドキドキハラハラと次の展開を期待しながらページをめくった「クライマーズ・ハイ」でしょうか。

「イニシエーション・ラブ」もインパクトあったんですけどね。

でも「クライマーズ・ハイ」のエンターテイメントを読む醍醐味感が忘れがたい。

ということで今月は「クライマーズ・ハイ」横山秀夫。

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2013年05月29日

「食味風々録」阿川弘之

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作家による食エッセイです。

海軍時代の食べ物の話、向田邦子氏と美味についての対談をした3ヵ月後、向田氏が飛行機事故で帰らぬ人となった話。

斎藤茂吉や志賀直哉などといった文士との交流も出てきます。

それにしても作家にはグルメな人が多いですね。

というか、文章を書く仕事をしているからそういうことを書いて発表する機会が多いということでしょうか。

年配の作家が書かれる食エッセイはさすがに戦中戦後の食べ物がなかった時代の話がよく出てきまして、それだけに食べ物についてのこだわりがなんだか若い人たちと根本から違うような気がします。

食べ物に敬意を持っておられますし、食事にしてもなんだかんだ言いつつ「美味しい白米が食べられればもうそれだけで・・・・」といった『芯』を持っておられます。

やはりそのような『芯』のある人の食エッセイは浮ついていなくていいですね。

巻末には娘の阿川佐和子氏との対談も収録されています。

ラベル:グルメ本
posted by たろちゃん at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 『あ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月27日

「ウエンカムイの爪」熊谷達也

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写真家の吉本は北海道で撮影していたときにヒグマに襲われます。

もうだめだと覚悟したとき一人の女性が現れ、不思議な能力でヒグマを操り吉本を救います。

その後吉本は雑誌の依頼でヒグマを捕獲して研究している大学のグループを取材することになり、そこであの時の女性と再会することになります。

女性の不思議な能力の正体はなんなのか、そして取材で吉本は何を見たのか・・・・。

作者のデビュー作です。

以前に「邂逅の森」という山本賞・直木賞をダブル受賞した力作を先に読んだせいか、ちょっと物足りなく感じてしまいました。

でもそれは順序が逆なので言いがかりですよね。(笑)

これがあの傑作に繋がっていくのだと考えると、なるほどと思えます。

作者の経歴は存じませんが、熊の生態や猟については実にお詳しい。

なのでその知識が作品にリアリティを添えて厚みになっているのですね。

小説誌の新人賞受賞作としては佳作だと思います。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 16:49| Comment(0) | TrackBack(1) | 『く』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月24日

「ラ・パティスリー」上田早夕里

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夏織は神戸の洋菓子店のパティシエです。

といっても新入りなので、いつもいちばん早くに出勤して店のシャッターを開け、開店の準備をするのも仕事のうち。

ある日シャッターを開けて店に入ってみると、すでに厨房に人がいます。

長身の見知らぬ男性は市川恭也と名乗り、自分はこの店のオーナーだというのです。

実は恭也はなんらかの事情で記憶喪失になっており、勘違いを起こしているようなのです。

とりあえずは事情がわかるまで、オーナーの計らいでしばらくこの店で働くことになります。

一緒に仕事をしながら、夏織はしだいに恭也に惹かれていくのですが・・・・。

マンガでは料理人や菓子職人を扱った作品は多くあり、すでにひとつのジャンルにさえなっています。

しかし小説ではなぜかマンガほどそういうのが成立していないですね。

活字の世界では難しいのでしょうか。

さて、この作品は洋菓子の世界を扱いつつ、主人公の成長の物語であり、ほのかな恋心があり、親子の絆のようなものも描かれています。

ただなんとなく読み終わって全体的にフラットな印象なんですね。

夏織と恭也の関係がもひとつ浅いですし、恭也の記憶の問題についても解決しないままです。

パティシエという職業の世界については素人の私にはよくわかりませんけども、そこそこ描けているのかなぁと。

ただ夏織と恭也にもっとパティシエの仕事を絡ませたほうが、こういうジャンルの小説として読み応えあったのではと思います。

まあ広く浅く無難にまとめておられるという印象ですかね。

シリーズの第一作という受け止め方もできますし、もし続編が出れば読んでみたいです。

ラベル:グルメ本 小説
posted by たろちゃん at 17:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 『う』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月22日

「クライマーズ・ハイ」横山秀夫

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1985年8月、群馬県御巣鷹山に日航ジャンボ機123便が墜落しました。

乗客・乗員合せて520人という史上最大の航空事故です。

地元である『北関東新聞』社内は喧騒の坩堝となります。

そこで記者をしている主人公の悠木はこの事故に関しての全権デスクに任命されます。

悠木は同僚の安西と『衝立岩』という岩壁に登る約束をしていたのですが、それどころではありません。

約束を破ることになってしまいました。

詳細がわからないながらも怒涛のごとく次々と入ってくる情報。

デスクの悠木は慌しく事件に巻き込まれていくのですが、そんな中、安西が病院に運ばれたというのです。

安西になにが?

そして史上最大の航空事故と向かい合うことになったデスクの悠木は、社内の軋轢の中でどのような記事を生み出していくのか・・・・。

実在の事故に材を取った小説です。

ちなみに作者は当時地元の新聞社で記者をしておられたとのこと。

なので実体験が元になっているんですね。

最後まで弛むことのない息詰まる緊迫感は、まさしく事故を目の当たりにしたこの作者にしか書けないものでしょう。

墜落事故を物語のメインとし、そこに新聞記者といえどもサラリーマンという組織の一員である悲哀、そして家族の絆などが描かれています。

私はこの作者の作品はまだこれで2冊目なのですが、渾身の一冊という感を持ちました。

読んでよかったと思えた小説でした。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 01:17| Comment(0) | TrackBack(1) | 『よ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする