表題作他4編収録。
すべて花にまつわるミステリーです。
表題作の「戻り川心中」は大正時代の歌人、苑田岳葉が主人公。
心中未遂事件を二度起こし、二度とも女を死なせ自分が生き残ります。
それらの事件を歌にして二大傑作歌集を発表した岳葉。
その後岳葉は自害します。
岳葉は死なせた女たちに何を求めていたのか・・・・。
苑田岳葉というのは作者が創った架空の人物ですが、この設定に誰しも思い浮かべるのが太宰治ですよね。
あとがきには何も触れられていませんけども、モデルは明らかに太宰でしょう。
しかし苑田岳葉という歌人が実在したかのようなリアリティがあります。
作中で紹介されている歌はもちろん作者の手によるものでしょうが、これもお見事です。
恋愛小説としても実に巧みだと思いますが、もちろんこれはミステリーなので悲哀の恋愛物というだけではなく、主人公の意図が解き明かされていくところに面白さがあるんですよね。
他の作品もそうなのですが、事件の真相が2転3転するところが作品に奥深さをもたらし、読み手を唸らせるのです。
そして流麗で繊細な文章。
この作家の持ち味でしょうか。
ラベル:小説