時代は1980年。
韓国で起きた光州事件から始まります。
軍事クーデターにより実権を握った全斗煥に対してデモを行った学生たち市民190名以上が、軍隊の発砲により命を落とすという痛ましい事件です。
それをテレビのニュースで観た在日朝鮮人でタクシードライバーを生業とする文忠明。
憤りを覚えますが、しかし何をすることもできません。
本国の朝鮮人でもなく日本人でもない在日朝鮮人。
そんな自分に苛立ちを感じています。
文忠明には2人の子供がいますが妻とはうまくいかず、20歳以上年下の愛人、朴淳花と刹那的な時間を過ごしています。
その日その日に流され、自分はどうなっていくのだろう・・・・。
梁石日、渾身の自伝的大作です。
在日朝鮮人というアイデンティティを見据えながら理想を持ち、しかしなにもできない焦燥感。
そして家庭ある身でありながら朴淳花という愛人ととことん泥沼にはまっていく。
二つの柱で読ませます。
そんな話ですが、読み終えた感想は中途半端。
でもそれは悪い印象としてではありません。
人間誰しも生活の中でいろんなことが同時進行しています。
恋愛だけしているわけではありません。
将来のことだけを考えているわけでもありません。
小説であれもこれもと取り入れるとどうしても散漫な印象になりがちですが、しかしそれこそがリアルであったりします。
梁氏の構成の粗さといいますかまとまり感のなさというのは私はいつも感じるのですが、しかし今回はそれが根無し草的な主人公の心情を描くのに合っていたと思います。
ラベル:小説