表題作他3編収録。
「ひかりごけ」は人肉を喰うという話です。
吹雪で船が難破し、どうにか陸地にたどり着いた数人の船員。
漁師が冬のあいだ打ち棄ててある小屋で吹雪をしのぐことになります。
2ヵ月後に船長だけが救助されるのですが、どうやら彼は生き延びるために仲間の肉を食べたというのです・・・・。
吹雪に閉ざされた状態で食料がなく、目の前に死があるという極限状況を描いています。
人肉を食べるというとまず普通の人は顔をしかめますよね。
とんでもない行為だと。
ましてや殺してまで食べるとなると。
では自然死した人間の肉を食べるのはどうなのでしょう。
人を殺すのと自然死した人間の肉を食べるのと、どちらの罪が重いのでしょう。
作者は問いかけます。
現在において殺人というのはほぼ毎日のように報道されています。
ある意味そういう事件には慣れてしまっています。
自分の身近ではそういうことはないものの、テレビニュースや新聞では毎日のように報道されている。
ごく普通の犯罪と化しているかの感があります。
でも人肉を喰うなどという事件はそうあるものではない。
それは野蛮人の行為だと。
じゃあ殺人という罪を犯しておきながら、でも人肉は喰っていないということで野蛮人ではないのかと。
人肉を喰うことに比べればただの殺人なんて・・・・てな理屈ですね。
怖い開き直りです。
自身が生き延びるために仲間を食べるという罪を犯さなければならなかった船長。
その罪を背負った慟哭があります。
ラベル:小説