2015年06月19日

「世界屠畜紀行 THE WORLD'S SLAUGHTERHOUSE TOUR」内澤旬子

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牛や豚や羊などの肉を食べようと思えば当然それらの動物を殺さなければなりません。

目の前でそれを見せられるとたいがいの人は残酷だと目を背けるんじゃないでしょうか。

ですが普段は平気な顔をして肉を食べています。

焼肉屋やステーキ屋で肉を見せられ「美味しそう」とは思っても「かわいそう」などと思う人はいないでしょう。

人間ってそんな身勝手な矛盾を抱えているんですよね。

そして屠畜を職業としている人たちを差別的な目で見たり。

著者は他の国の屠畜事情はどうなのか、日本のように差別意識はあるのか、いろんな国を取材してまわります・・・・。

私がこの本を知ったのは「もの食う本」という食べ物にまつわる本について書かれた一冊です。

この本によりますと、単行本として出版されたのが2007年で版元は解放出版社。

読みたいなと思ったものの、手に入らないだろうなぁと。

ですが角川文庫から出ていたんですね。

ブックオフの100円コーナーでたまたま見つけて即ゲット。

読む前はけっこうヘビーな内容かなと思っていたのですが、いやいや。

著者のなんとあっけらかんとしたことか。

屠畜に対してまったく抵抗のない著者の視点と行動が実にいい。

イラストも著者の手によります。

肉を食べるからにはその動物の命を奪わなければなりませんし、それを生業としている人もいるわけです。

突如肉の切り身がどこからか沸いて出てくるわけではありません。

グルメだなんだの前にこういう当たり前のことをもう一度よく認識し、感謝の気持ちを持たなければなりませんね。

posted by たろちゃん at 03:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 『う』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月17日

「唇のあとに続くすべてのこと」永井するみ

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海城菜津は料理研究家。

そこそこ名前も売れ始めています。

夫は商社マンで小学生の娘もいる幸せな家庭。

ある日、以前に勤務していた会社の上司だった岸が事故死します。

その上司とは不倫関係にあった菜津。

しかし結婚した現在も繋がりはあったのです。

岸がストーカーのように菜津にまとわり付いていました。

通夜に参列するのですが、そこで元同僚の藤倉と再会します。

同僚時代は特に男として意識していなかったのですが、今になると心が揺らぎます。

菜津は関係を持ってしまうのですが、しかし藤倉の接近状態が不自然です。

岸が目障りだった菜津。

岸が事故死した当日、菜津が岸と会っていたのではないかと探りを入れてきます。

警察も何度も菜津に事情を聴取しに来ますし、だんだんと菜津は追い込まれていきます・・・・。

結婚してからも菜津につきまとい生活を脅かす岸、数年ぶりに再開し菜津の心を揺さぶる藤倉、そんなことをなにも知らない優しい夫。

菜津の平穏だった生活はどうなってしまうのか・・・・。

最後まで緊迫したサスペンス小説であり、アダルトな恋愛小説でありました。

ラベル:小説
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2015年06月15日

「剣ヶ崎・白い罌粟」立原正秋

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短編集です。

表題作2編のほか、3編収録。

「剣ヶ崎」の主人公次郎は朝鮮人の血が4分の1混じっています。

父親は大日本帝国陸軍大尉でしたが姿を消し、行方がわからなかったものの25年ぶりに手紙をよこし、現在は韓国の軍人となって次郎の前に現れます。

そんな25年の歴史の中で、次郎は兄の太郎とともにどのような苦悩を抱えて生きてきたのか・・・・。

「白い罌粟」は他の収録作とはちょっと雰囲気が違います。

高等学校の数学教師寺石が串田という妙な魅力のある男と知り合います。

贅沢な暮らしをしていますが仕事をしている気配はありません。

なにをやっているのか奥さんも知らないというのです。

やがて何度も串田の家に通っているうちに“仕事”を手伝うことになるのですが・・・・。

立原は本書に収録されている「薪能」、「剣ヶ崎」で芥川賞候補になっているのですが、結局は「白い罌粟」で直木賞を受賞しています。

「薪能」や「剣ヶ崎」は純文学なんですけど、「白い罌粟」は大衆文学ということですね。

ミステリーっぽい雰囲気があり、高木彬光の「白昼の死角」を思い起こさせたりもします。

この作品で直木賞を受賞したのはご本人にとって本意なのか不本意なのかわかりませんけども、ご本人は「純文学と大衆文学の両刀使い」と称しておられたようなので本意なのかもしれません。

ただ私の個人的な思いとしましては、やはり「薪能」、「剣ヶ崎」で芥川賞作家というほうが立原らしいという気がします。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 03:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 『た』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月13日

「暴力団」溝口敦

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暴力団。

一般人にとっては怖い存在です。

その実態はいったいどうなのか。

第一章の『暴力団とはなにか?』から始まり、『どのように稼いでいるか?』、『警察とのつながりとは?』、『代替勢力「半グレ集団」とは?』など、丁寧に解説されています。

犯罪に関わったり一般人を怯えさせる存在なんだから強引にでも無くせばええやんと思いますが、そう簡単なものでもありません。

ですが暴力団は現在曲がり角にいると著者はいいます。

お先真っ暗で経済的にも生活していけないと。

社会的な制約もあります。

そんな魅力のない不便な世界に若者もわざわざ“就職”したがりません。

これは著者に限らず現在よくいわれていることですよね。

そのあたりの事情がまた“半グレ集団”といった存在につながっているのですが。

著者は暴力団関係のジャーナリストとしては第一人者ではないでしょうか。

島田紳助と暴力団との関係も問題になる何年も前に追求しておられますし、細木数子についても一冊の本に記しておられます。

自身や長男も暴力団に襲撃された経験がありながら、しかしこのようなテーマを追い続けておられるのには敬服いたします。

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2015年06月11日

「学園のパーシモン」井上荒野

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真衣が通う学園の高等部には『赤い手紙』という伝説があります。

選ばれた人間にだけ届く『赤い手紙』。

受け取ると学園生活がばら色になるとかの曖昧な伝説です。

そんな噂に乗じて真衣や木綿子に赤い手紙でラブレターを出す岩崎恭。

ファンクラブもあるほどモテる転校してきた男子生徒です。

一方、病に倒れた学園長の死期がどうやら近いらしいという雰囲気が学園に広まります。

生徒や教師たちは宗教の教祖のごとく異様に学園長を崇拝しており、その雰囲気はちょっと不気味です。

なんとも不穏な空気の中、真衣や木綿子、恭たちの関係はどのようになっていくのか・・・・。

今まで何冊か井上荒野の作品を読んできましたが、これは珍しく学園小説。

ですがもちろん爽やかさはありません。

真衣は美術教師の磯貝と、恭は保健室の養護教諭と関係を持っていますし、木綿子は皆から避けられているような存在です。

休学している演劇部部長は自殺愛好会のサイトを主催し、それに関係した他校の女生徒が自殺未遂をおこしたり。

そして学園長の死というXデーがずっと背景に流れており、これがまた重苦しい雰囲気を醸しています。

ですが、う~ん、結局なんなんでしょうね。

映画の「台風クラブ」の雰囲気を感じたりもしましたけど。

タイトルに使われている『パーシモン』という言葉の意味にもけっこう頭を使いました。

まあこれはこれで井上荒野らしい学園小説ではあります。

速水由紀子の解説はある意味あっぱれ。

小宇宙とかコクーンとか、よくぞここまで書けるなと。(笑)

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 03:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 『い』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする