2015年08月10日

「おにぎりの丸かじり」東海林さだお

Cimg2638

おにぎりの具。

例えば梅干し。

ゴハンという厚い壁に覆われ、しかもその上に光を通しにくい黒い海苔で覆う。

飯の中という闇の世界です。

そして口中へ。

闇から闇。

日の目を見ることなく生涯を終えると。

しかし「目覚めよ具!」、「具に光を!」という解放運動により、おにぎりの具は天むすにおいて一部脱出という形に成功します。

ただ全露出ではなく一部だけという中途半端にとどまり、天むすの具エビ天は苦悩するのです・・・・。(「おにぎり解放運動」)

いや、しかし。

おにぎりの具でここまで考察できる著者の眼がすごい。

それをひとつのエッセイに仕上げるセンスがすごい。

いまさら東海林さだおの天才をどうこういうまでもないのですが。

相変わらず傑作そろいのエッセイ集でありますが、他には「丼一杯おかず無し!!」なんてのもよかったですね。

美味しいごはんを食べて「うーん、旨い。これならおかずなんか要らない」。

テレビのグルメ番組なんかでよく出てきそうなコメントです。

それはそれで確かに本音だろうと理解を示します。

しかし著者は妥協しません。

「じゃあ、いまここで、この丼一杯のゴハンをおかず無しで食べてください」などといわれるとリポーター役のタレントはどうするのかと。

「そのへんのところは、まあ、大人の話をしようじゃありませんか」ということになるだろうと。(笑)

ですが著者は実行します。

新米のコシヒカリを購入。

炊いて丼に盛って食べ始めます。

丼一杯のゴハンはおおよそ二十口分とのことですが、結果、十口目あたりから辛さが身にしみてくるとのこと。

十八口目には目に涙を浮かべながらひたすらゴハンを噛み、二十口目にはついに明太子に手を出すことに。

おいしくて体が震えたと。(笑)

私も美味しいごはんに出会って目から鱗がおちる体験をしたことがありますけども、「本当に美味しいごはんならば、おかずなんか要らない」なんてことを言う人は信用しません。

美味しいごはんを褒め称える比喩として言っておられるのならいいのですが、真剣に言っておられる方もいらっしゃいますので。

栄養学的なことはこの際置いておくとしても、味覚的にそんなわけない。

ごはんは他の味があってこそ美味しく飽きずに引き立つのです。

ごはんばかり食べて味覚的に満足できるわけがない。

そりゃ戦中戦後のように食べ物の無い時代ならば白飯だけで御の字でしょうけど。

ラベル:グルメ本
posted by たろちゃん at 03:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 『し』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月08日

「茗荷谷の猫」木内昇

Cimg2637

短編9編収録です。

江戸時代から始まり昭和の戦後あたりまででしょうか、時代をまたいでの短編集です。

どれも主人公はごく普通の庶民です。

桜の新種を作り出す男、万人が幸せになるための黒焼きを造り続ける男、役人を夫に持つ画家の女、その夫は妻に内緒で役人を辞め浪曲の小屋の呼び子をしており、などなど・・・・。

それぞれ独立した話ではあるのですが、さりげなく過去の登場人物が話に出てきます。

この作品集を読みますと、当たり前のことですが人それぞれ人生があるというのを噛み締める思いがします。

自分にとってまったく知らない人物にも人生があり、そのようないろんな人の人生が自分に関わっているということを、そうやって日々を積み重ねて人は生活しているんだということを、さりげなくじんわりと提示しています。

大部分の人は歴史に残るような功績を残すわけでなし、生涯を終えます。

しかし間違いなくその人の存在は誰かに関わり、未来へとつながっているのです。

そんなことを改めて思い知らされる実に味わい深い一冊でした。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 03:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 『き』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月06日

「堕落のグルメ ヨイショする客、舞い上がるシェフ」友里征耶

Cimg2628

さてさて、あくまで客の立場からグルメ業界に物言う著者が今回はどのような内容で立ち向かうのか。

タイトルは「堕落のグルメ」です。

サブタイトルは「ヨイショする客、舞い上がるシェフ」。

ということで、客も客ならシェフ(店)もシェフだと。

そういうことですね。

まず第1章ではご自身の経験を例に挙げ、性悪店主を告発しておられます。

店を批評したことにより、脅迫や訴訟をちらつかせられたり出入り禁止にされたり。

第2章では食材の偽装について切り込んでおられます。

これはしょっちゅう問題になっていますもんね。

第5章では客に対しての批判もしておられます。

厚顔無恥な常連客やブロガーたち。

第6章では関西飲食業界を批判。

読み通しまして、確かにもっともだと思う部分は多々あるのですが、苦笑してしまう部分も少なくありません。

そこまで必死に批判しなくてもと。

例えば第4章の料理人(匿名)とのQ&Aではいろんなジャンルの料理人が質問に答えているという形式なのですが、著者が最後にコメントを添えておられます。

このコメントがなんとか著者の思いに持っていこうとする意図が見えすぎてしまっており、読んでいてどうも苦しい。

料理人のコメントだけで客観性を持たせるべきなのですが、ご自身の思想に誘導して着地させておられるのですね。

グルメ業界やそれを取り巻く連中の胡散臭さは、業界に興味を持ち見続けている者には明らかです。

ですがそれを真正面から批判する人がいなかったのは事実。

ジバランを始めとして素人の立場から公平に批評するというコンセプトであるはずのサイトやブログの主催者が、マスコミの声掛けによりコロッと寝返ってしまう。

そんなに“有名人”になりたいんでしょうか。

ギャラが欲しいんでしょうか。

山本益博氏にしてもそうですもんね。

「東京味のグランプリ」を出版した最初の頃の気概はどこへいったのか。

なので著者に批判されるのですね。(笑)

話がちょっと逸れましたけども、そんな中でひたすら問題提起しておられる著者の友里征耶氏、賛否あるでしょうが私は面白い存在だと思います。

ラベル:グルメ本
posted by たろちゃん at 03:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 『と』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月04日

「TOKYOオリンピック物語」野地秩嘉

Cimg2636

2020年に2度目の東京オリンピックを控えていますが、この本は1964年に開催された最初の東京オリンピックの物語です。

といいましても各競技の選手たちがどうのこうのな内容ではありません。

オリンピックを支えた裏方の人たちの物語です。

ポスターやシンボルマークを作ったデザイナー、リアルタイムシステムを作ったシステムエンジニア、選手村で1万人の食事を作った料理人、警備を受け持った民間初の警備会社、記録映画としてフィルムに収めた監督やキャメラマン、ピクトグラム(施設案内の絵文字)を作ったグラフィックデザイナー・・・・。

そんな人たちのオリンピック成功にかける意気込みがひしひしと伝わってくるエピソードです。

現在2020年東京オリンピックのシンボルマークがどうこうと問題になっていますが、このオリンピックのシンボルマークというのは1964年の東京オリンピックが最初なのだとか。

リアルタイムシステムにしても瞬時に着順やタイムや選手名などが各会場に送られる。

これも東京オリンピックが初。

現在はこのノウハウがあらゆるところで活かされています。

選手村の食事にしても冷凍食品を導入。

でないと1万人の食事は賄えません。

臭くてまずいといわれていた冷凍食品を飛躍的に改善させます。

今では普通に見かける民間の警備会社もこのオリンピックで注目され、大きな業界へと成長します。

記録映画も市川崑監督をはじめとして、錚々たるキャメラマンが集結。

大ヒットを記録します。

ピクトグラムは世界各国から集まる人たちを絵で案内しなくてはなりません。

現在このジャンルがいちばん発達しているのは日本だそうですね。

インターネットの絵文字を見てもそれは伺えます。

漫画という突出した文化を持つ日本ならではでしょうか。

さすがだと思います。

オリンピックというとまず活躍した選手や記録が取り上げられますが、このような人たちの努力も大いに評価されなければなりません。

著者らしい一冊だと思います。

posted by たろちゃん at 03:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 『の』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月02日

「一分間だけ」原田マハ

Cimg2630

藍はファッション雑誌の編集者。

浩介という恋人と同棲しています。

取材したペットショップで処分寸前だったゴールデンレトリバーのリラを購入。

浩介と2人で育てるのですが、仕事に生きがいを感じている藍はなんだかんだとリラの存在が疎ましくなってきます。

リラが手元にやってきたときにはその愛おしさに感動したにもかかわらず。

やがて浩介と別れることになりリラを引き取ったのですが、仕事に忙しい藍はなかなか面倒を見切れません。

仕事もしたい、恋もしたい。

足枷になるリラにあたったりする藍。

リラなんかいなくなればいいと思ったり。

やがてリラの体に異変があることに気付き、病院に連れて行くと癌だと診断されます・・・・。

主人公はファッション雑誌の編集者というコッテリした設定で“仕事する女”を強調しています。

なんで“仕事する女”といえば“ギョーカイ”なんでしょうか。(笑)

こういう設定多いです。

朝から晩まで作業服着て工場で仕事している女性もいるんですけどね。

弁当屋の暑い厨房で汗だくでおかず作ってる女性もいるんですけどね。

なんでそういうジャンルで“仕事する女”を書かないんでしょうか。

ま、この作品においては雑誌の編集者という職業設定が話の舵取りにもなっているんですけど。

しかし主人公のわがままっぷりは腹立たしいですねぇ。

もっと仕事に打ち込みたい、恋もしたいと、リラや浩介に不満を持つ。

ところが状況が変わるととたんにリラや浩介のありがたさに気付く。

自分にとって本当に大切なものはなんだったのかというテーマなわけですが、ふざけんなよと。(笑)

私は人後に落ちない犬好きです。

人間は嫌いですが犬は大好きです。

犬というのはものすごく健気で、飼い主を裏切らないんです。

なのでそんな犬に仕事だの恋だのを優先し散々わがままをぶちまけておきながら(本まで投げつけて怪我させてます)、いざとなると「神様お願い」みたいなことをよく言えたものだなと。

ラストを生かすための山あり谷ありのエピソードだとはいえ、この女好かんわ。(笑)

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 03:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 『は』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする