表題作他4編収録の短編集。
「五年の梅」は藩主の黒田豊前守直亨の食がめっきり細くなって約1年。
藩医が代わる代わる治療に努めたものの効果がありません。
このままでは衰弱してしまいます。
責任の槍玉に挙げられているのが台所奉行の矢野藤九郎です。
しかし友人の村上助之丞から見て藤九郎の献立に手落ちはありません。
ある日助之丞が藤九郎の家を訪れ、妹の弥生との話はなかったことにしてほしいと申し出ます。
他の女とのあいだに子供がいるのだと。
助之丞と弥生は本人たちも周りもいずれ結婚すると認知されていた仲でした。
藤九郎は怒り、弥生は涙を流します。
後日、藤九郎は助之丞が蟄居となったことを知らされます。
顔色を変える藤九郎。
話を聞くと助之丞は豊前守に恐れながらと次の間から大声をかけたというのです。
病でもないのに食物を無駄にし、家臣を案じさせるのは藩主たる者の為すべきことではないと。
そのために誹謗され進退を迫られている者がいるのだと。
国許で猫の額ほどの畑を耕し、口を糊する家中のことをどうお考えかと。
しかも殿は気が小さいとまで言ったとのこと。
もちろんそれは友人の藤九郎を思っての言動です。
あのときの助之丞は、重科はもとより死を覚悟の上で弥生に別れを告げに来たのかと藤九郎は悟ります・・・・。
自らを犠牲にしてまでも友人の正当を訴えた助之丞の毅然さ。
これが胸を打ちます。
その後の弥生を想い続ける気持ちもいいですね。
嫁いだものの不幸になっていると耳にし、なんとか手を貸してあげたいと尽力します。
そして豊前守も決してわがままな殿様ではなく、話がわかり心の広いところを見せます。
他の収録作もそうですが、最後にじんわりと暖かい場所に落ち着くのがいいですね。
地味な生活でこれからも苦労が予想されますが、ほっこりと落ち着くべき場所に落ち着いて過ごす人生。
幸せな生活とは何か。
そんなことを考えさせられる一冊でした。