時代は明治26年。
実際にあった『河内十人斬り』という大量殺人事件を題材にした作品です。
幼い頃は周りにちやほやされて育った城戸熊太郎。
しかし実際は他の子供に比べて何もできないことに自ら気付きます。
自分の考えを上手く言葉で表現できず周りとコミュニケーションできないもどかしさをつねに抱える日々です。
そのせいかいい歳になっても働かずぶらぶらし、博打に手を出し勝つこともできず、侠客としても中途半端。
ですが、やがてひょんなことから弥五郎という弟分ができます。
その弥五郎と、借金や内縁の妻の浮気でコケにされた松永宅に乗り込み、主の傳次郎や息子の熊次郎たちを次々と惨殺します・・・・。
主人公の熊太郎は純粋で不器用なため上手く世渡りできないわけですが、別の言い方をすれば見栄っ張りで優柔不断な馬鹿です。
よく昔の天才が奇抜な言動ゆえに周りの人間とは合わなかったなんてエピソードがありますが、それとはちょっと違う。
借金にしろ妻の浮気にしろ、自分の優柔不断さと間抜けさが招いたこと。
もっとしっかりと自分を律し、毅然と相手に対すればそのようなことは起きなかったはず。
といってもそのようなことができない人間だからこその悲劇なわけですが。
私はこの主人公に同情できません。
ただ小説としては傑作だと思います。
840ページ弱のブックカバーに収まらない(笑)分厚さに躊躇しますが、読み進めていきますとむしろこのボリュームがありがたい。
これを3分の1程度の枚数で収められては困ります。
町田作品ならではのとぼけた言い回しで笑わせてくれますし、後半の惨殺シーンも筒井康隆的なスプラッタで容赦がありません。
読み応えじゅうぶん、作者渾身の大作ですね。
ラベル:小説