裏表紙には傑作長編と書かれていますが、小説というよりはエッセイですね。
日々の暮らしを淡々とした筆致で描いています。
ただこういうのも作者が小説だと言いきればそれはやはり小説なのかもしれません。
読むぶんにはどちらのジャンルであろうが関係ないわけですが。
誰の生活もそうだと思うのですが、ここに描かれている毎日に大きなドラマはありません。
近所のパン屋でパンを買っただの、庭に花が咲いただの。
子供が孫を連れてやって来ただの。
ご近所さんから物をいただいただの。
あまり代わり映えのない毎日の描写なのですが、しかしこれがなんとも優雅で贅沢なんですね。
作者は毎日ハーモニカを吹き、妻はピアノを弾き、曲やそれを作った人たちに感心し敬う。
庭に咲いた花に感動し、遊びに来る鳥たちに目を細める。
豊かな暮らしというのはこういうものなんだなと思わされます。
お金があるとかないとかじゃない。
もちろんお金があってこその生活だという現実はあるにしても。
贅沢な食事をした、高価な物を買った、海外旅行に行った、そんなことを鼻高くして語る俗な趣味とは無縁の日常です。
よろこぶ、うれしい、おいしい、ありがたい、そのような言葉が頻繁に出てきます。
周りの人々や自身が毎日を無事に元気に過ごせていることや、自然に対する感謝の気持ちが溢れ出ています。
心が穏やかになる清々しい一冊でした。
ラベル:小説