著者は直木賞作家。
受賞作よりもおそらく「居酒屋兆治」という作品で一般的には知られているんじゃないでしょうか。
そしてサントリー宣伝部のコピーライターであったという経歴。
「トリスを飲んでHawaiiへ行こう!」というコピーが有名です。
この本のタイトルである「行きつけの店」というのはもちろん飲食店のことなのですが、氏の場合あまりグルメという感じがしません。
それは例えば開高健などと比べてのことですが。
料理そのものよりも店の雰囲気、主人や女将の人柄、そういったことに重点を置いておられます。
なので氏は引越ししてもまずは近所にいい店を見つけ、その店にひたすら通うというスタンスです。
近所に限らず日本全国においても。
ということでこのタイトルなんですね。
そうですね、私も同じ考えなのですが、店はやはり人です。
客と店主(従業員)といえども、結局は人と人との付き合いです。
飲食店ですからもちろん肝心の料理がお粗末では話になりませんが、それをクリアした上でやはり店の人柄。
料理が平凡であっても店主の人柄がよければ居心地よく通ってしまいます。
逆にいくら料理が良くても居心地悪い店には二度と行きません。
最近ソワニエなんて言葉を目にします。
フランス料理店でその店において最上級に扱われる客というような意味らしいですが、そんなのを目指そうという特集が料理雑誌であったりします。
アホかと思いますね。(笑)
そんなのは目指すものではありません。
ごく普通にお気に入りの店に通い、いつの間にやら数十年。
それは高級店であろうが大衆店であろうがです。
ちゃんと常識を守り普通に通っていれば、気が付いたときには店はその客をソワニエとして扱ってくださいます。
この本も結局はそういうことなんじゃないかと思います。
行きつけの店、それはすなわち自分が店を理解し、店も自分を認めて受け入れてくれるということなのだなと。
そのような店を持つことができたならば、ほんとに幸せです。
胸を張って「行きつけの店」と言えます。