2016年05月11日

「エレクトラ 中上健次の生涯」高山文彦

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いろんな作家がいますけども、文学史に名を残し後々まで語り継がれる作家というのはそうはいないでしょう。

中上健次はまぎれもなく名を残し後々まで語り継がれる作家だと思います。

何十万部のベストセラーを書いたわけでもなく、一般的な知名度はほとんどないでしょうけど。

ですが日本の現代文学を語る上で絶対に無視できない作家です。

和歌山の被差別部落に私生児として生まれ、複雑な血縁の中に育ち、それを基盤として文学を創りあげました。

まさしく作家になる宿命を背負って生まれてきたような人物です。

そんな作家の生涯を描いたノンフィクション。

中上の文学といえばやはり“路地”であり“血縁”なわけですが、いきなりこの素材で作家としての地位を築いたわけではありません。

まだ新人の頃「エレクトラ」という作品を書き上げた中上ですが、それをあえて封印させた編集者とのやりとりが冒頭にあります。

じりじりと汗が滲むようなやりとりです。

そのようないろんな苦節があり、やがて満を持して「岬」で芥川賞という評価を得るわけですね。

そして無頼派のイメージが強い中上でしたが、繊細で優しい一面も描かれています。

じっくり丁寧に中上健次の生涯を辿った一冊です。

平成4年、志半ばで46歳で逝去。

その死はあまりにも早く、日本の文学にとって大きな損失でした。

posted by たろちゃん at 03:49| Comment(1) | TrackBack(0) | 『た』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月09日

「はじめての恋でした」水城夕

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坂井綾子は結婚式場に勤めています。

ある日、高校時代の初恋で片思いの相手だった千葉陽介が婚約者を連れて客として訪れます。

陽介を祝福しながらも幸せに満ちた婚約者の明美を見ると切なくなる綾子。

そんな綾子に思いを寄せる同僚の上村。

悲しそうな綾子に上村は告白し、ふたりは付き合い始めます。

後日また式場を訪れた陽介と明美ですが、綾子のミスのために明美は事故で命を落としてしまうのです。

婚約者を失った陽介は綾子を恨み、自分の部屋に軟禁し一生かけて償えと激情します。

「俺の命令のみに従う奴隷になればいい」と綾子を犯すのです・・・・。

エタニティブックスには珍しく(?)、ややミステリー仕立ての内容です。

事故は実は人為的な疑いがあり、綾子を思う上村が関わっている可能性が浮上してくる流れはちょっとミステリーっぽい。

しかしその後上村は・・・・。

う~ん、まあなんとも粗いですね。

明美があっけなく死んだときはおもわず「えっ」て声を上げてしまいました。

原因がまた取って付けたようで、いくら時間があるとはいえ結婚式場が営業中に従業員みんなで清掃してるなんてあり得ませんし。

しかも手すりを磨くためのワックスをバケツに入れてたって、んなアホな。

指輪がどうのこうのというのも。

軟禁されてからの綾子の心理もちょっとなぁ。

陽介への思いといえば聞こえはいいですが、自分のそれまでの生活や上村のことなどなんにも考えず、セックスに溺れ幸せに浸っているおバカっぷり。

なのでいちおうハッピーエンドな結末ですが、あくまでそれは今だけのことで。

それだけに含みのある怖さはあります。

もうひとつ収録されている「恋がはじまるとき」は陽介の視線で書かれた中学高校時代の話。

綾子との出会いが描かれています。

なるほど、陽介と綾子の過去というだけでなく、陽介のエピソードを描いて先の話の伏線としているわけですね。

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2016年05月07日

「水滴」目取真俊

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6月の半ば、昼寝をしていた徳正が目を覚ますと右足の膝から下が中位の冬瓜ほどに膨らんでいました。

脛毛も抜け落ち緑色になった足は形といい手触りといい、冬瓜そのものです。

そして親指の先が破れ、水が滴り落ちます。

徳正は寝たきりになり傍目には眠っているように見えますが、意識はあります。

しかし言葉を発することも体を動かすこともできません。

ある夜、右の爪先にむず痒いような痛いような感覚を覚え、目が覚めます。

足元にはぼろぼろの軍服を着た男たちが並び、先頭の足元にしゃがんでいる男は徳正の右足首を両手で支え持ち、踵から滴り落ちる水を口に受けていたのでした。

順番に水を飲み、敬礼して壁の中に消えていく兵隊たち。

毎晩現れるようになる兵隊たちは何者なのか・・・・。

シュールでユーモラスでブラックで悲しい作品です。

他にも2編収録されており、どれも沖縄を舞台にしています。

「風音」は垂直に切り立った崖にある古い風葬場の頭蓋骨の話です。

風が吹くと泣くという頭蓋骨。

その頭蓋骨にこだわる清吉は何を知っているのか・・・・。

「オキナワン・ブック・レビュー」がちょっと異色といいますか。

書評という体裁をとりつつ、遊びながら皮肉の効いた風刺をしていて笑えました。

それぞれタイプの違う作品で、作者の幅の広さが伺える短編集です。

ラベル:小説
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2016年05月05日

「食堂つばめ」矢崎在美

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柳井秀晴が目を開けると、そこは列車の中です。

このような電車に乗ったような、乗らなかったような。

寝ぼけているのかどうも記憶が曖昧です。

お腹がすいた秀晴は、ワンピースにエプロン姿の女性に食堂車に案内され玉子サンドを食べるのですが、これがものすごく美味しい。

やがて電車を降り、駅の外へ出て歩き出すと自分の名前を呼ぶ声が聞こえます。

目を覚ますとそこは病院のICUでした。

どうやら臨死体験をしたようです。

もしあのまま列車を降りなかったら・・・・。

その後もあの美味しかった玉子サンドを食べたい一心のせいか、生と死の間にある街を訪れることになります。

そしてエプロン姿の女性ことノエと再会しいろんな料理を食べさせてもらうのですが、これがまた美味しい。

秀晴は料理上手なノエにこの街で食堂を開くことを勧めます。

死に向かってこの街にやって来た人たちにノエがその人の思い出の味の料理を食べさせ、また現世に帰ってもらおうとするのですが・・・・。

料理で味付けしたファンタジー小説ですかね。

『街』にやって来る人たちのエピソードにちょっとした感動があったりします。

ノエの過去についても。

ただ秀晴が簡単にあっちとこっちを出入りできるというのがちょっとご都合主義です。

どうしてそのようなことができるのかもいまいちわからない。

『街』に行っているあいだ現世の秀晴はどうなっているのでしょう?

そう頻繁にころころと死にかけるわけにもいかんでしょうし。

会社で居眠りしていたなんて記述がありますけど、そうそうねぇ。

そのあたりも含め、今後どのように話を持っていくのか読んでいきたいと思います。

ファンタジーですからあまり細かいことに目くじら立てると楽しめませんけどね。(笑)

ラベル:グルメ本 小説
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2016年05月03日

「黒笑小説」東野圭吾

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短編集です。

10編が収録されていますが、タイトルの割にはあまりブラックでもありませんしさほど笑えません。

文壇を舞台にした「もうひとつの助走」、「線香花火」、「過去の人」、「選考会」の4編がちょっと皮肉が効いていましたか。

「もうひとつの助走」というのはもちろん筒井康隆の「大いなる助走」へのオマージュでしょう。

ですがページが短いこともあり、やはり本家の強烈さにはかないません。

その他の作品もいまいち突き抜け感がないです。

期待していたほどの内容ではありませんでしたが、元々そのような作家さんではありませんしね。

ま、こんなものかといったところです。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 03:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 『ひ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする