いろんな作家がいますけども、文学史に名を残し後々まで語り継がれる作家というのはそうはいないでしょう。
中上健次はまぎれもなく名を残し後々まで語り継がれる作家だと思います。
何十万部のベストセラーを書いたわけでもなく、一般的な知名度はほとんどないでしょうけど。
ですが日本の現代文学を語る上で絶対に無視できない作家です。
和歌山の被差別部落に私生児として生まれ、複雑な血縁の中に育ち、それを基盤として文学を創りあげました。
まさしく作家になる宿命を背負って生まれてきたような人物です。
そんな作家の生涯を描いたノンフィクション。
中上の文学といえばやはり“路地”であり“血縁”なわけですが、いきなりこの素材で作家としての地位を築いたわけではありません。
まだ新人の頃「エレクトラ」という作品を書き上げた中上ですが、それをあえて封印させた編集者とのやりとりが冒頭にあります。
じりじりと汗が滲むようなやりとりです。
そのようないろんな苦節があり、やがて満を持して「岬」で芥川賞という評価を得るわけですね。
そして無頼派のイメージが強い中上でしたが、繊細で優しい一面も描かれています。
じっくり丁寧に中上健次の生涯を辿った一冊です。
平成4年、志半ばで46歳で逝去。
その死はあまりにも早く、日本の文学にとって大きな損失でした。