2016年06月10日

「ズームーデイズ」井上荒野

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30歳で売れない小説家の私。

なぜかカルチャー番組の司会に抜擢され、その番組でADをしていた8歳年下のズームーと知り合い一緒に暮らし始めます。

ですが私にはカシキという既婚者の恋人がいます。

ズームーにカシキにはない魅力を感じるのですが、しかし私はカシキのことが気になってしょうがありません。

ひたすらカシキからの電話を待ち、呼び出されれば真夜中にタクシーに乗ってでも会いに行ってしまいます・・・・。

カシキという既婚者と付き合いつつ、主人公の30歳から7年間のズームーとの暮らしを描いています。

とにかくカシキに振り回される主人公のバカさ加減が、ある意味この小説の読みどころといえましょう。

そして人のいいズームーに安らぎを求める身勝手さ。

しかし一緒に暮らしてはいるものの、ズームーとの関係は恋愛ではないでしょう。

都合よく扱われつつも恋愛しているのは明らかにカシキに対してです。

でもこういうのって実はよくあることではないでしょうか。

実際いま付き合っているパートナーを本当に好きなのか。

本当に好きな相手がいるにもかかわらず、埋め合わせに付き合っているだけではないのか。

燃えるような気持ちはないけれども、とりあえす付き合っていて悪くはないしとか。

いろんな事情があると思いますけども。

そう考えると主人公の行動というのは滑稽で情けなくはあるものの、実に自分に正直なのだなと思えてきます。

ズームーという一緒に暮らしている男がいるにもかかわらずひたすらカシキからの連絡を待ち、呼び出されれば飛んでいく。

じゃあズームーの存在は必要ないのかというとそうではないんですね。

ズームーがいてこそのカシキとの恋愛であると。

お汁粉に塩を入れて甘さを引き立たせるようなものでしょうか。

ちょっと違うか。

ま、誰しも恋愛にはおバカさんになるのかもしれません。(笑)

ラベル:小説
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2016年06月08日

「そこのみにて光輝く」佐藤泰志

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パチンコ屋で拓児という男と知りあった達夫。

いまいち気が乗らなかったのですが、誘われて家までついていきます。

連れていかれたのは差別されている地域の貧相な家です。

そこで拓児の姉の千夏と出会います。

達夫は千夏と関係を持つのですが、千夏はチンピラの女です。

それでも達夫は千夏を自分の女にします。

第二部「滴る陽のしずくにも」では千夏と結婚し子供も生まれ、ささやかな生活を始める達夫。

そして松本という男の誘いに乗り達夫は拓児と水晶掘りの仕事をすることになるのですが、拓児は刺傷事件を起こし警察に捕まってしまいます・・・・。

何がどうという大きな出来事があるような小説ではありません。

青年の彷徨する地味な生き様を描いています。

世の中皆がスポットライトを浴びた生活をしているわけではありません。

目の前にいろいろな問題を抱えつつ、地道に一歩一歩生きています。

そんな地味な毎日が水晶掘りという一攫千金、バクチのような仕事に向かわせるのでしょうか。

いや、バクチというよりもそこに夢を見ているのかもしれませんね。

ささやかな夢と希望。

人生の中のきらりとした輝きがあります。

味わいのあるいい作品でした。

ラベル:小説
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2016年06月06日

「侠飯」福澤徹三

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タイトルは「おとこめし」と読みます。

就職活動が全滅状態の大学生、若水良太。

ある夜のこと、帰宅すると良太の住むマンションの前で3人対2人のヤクザ同士の銃撃戦に巻き込まれます。

敵と勘違いされ撃たれる寸前に助けてくれたのが2人組のひとり、組長の柳刃竜一です。

命を助けてもらったのはいいのですが、柳刃とその子分である火野が良太のマンションに居座ってしまいます。

意外なことに柳刃はきれい好きで料理が得意。

散らかり放題だった部屋をきれいに片付け、冷蔵庫やら炊飯器やらフライバンやらを勝手に新しいものに取替え、毎日いろんな食材や調味料をネットで取り寄せ、せっせと朝晩料理を作ります。

食費も浮くし料理は美味しいのでそれはありがたいのですが、友達が家に来るのを拒否し続けて怪しまれるし、これが警察に見つかれば犯人蔵匿罪になってしまいます。

いったい男たちはいつまでマンションに居座り続けるのか悩む良太ですが・・・・。

ここ最近ずいぶんとグルメ小説が増えてきましたね。

このジャンルではようやくマンガに追いついてきたかなという感じです。

料理好きなヤクザというミスマッチな設定で読ませるこの作品。

まず目次を見ますとそれぞれの章のタイトルが興味をそそります。

「オイルサーディンとカマボコとリンゴとネギでなにを作るか」、「チャーハンはパラパラじゃないほうが旨い」、「ゴミ袋とレンジで作る刑務所の飯」、「ステーキはA5ランクよりスーパーの特売品」などなど。

内容を読んでみますとタイトルから期待するほどのものではないんですけどね。(笑)

ヤクザがずっと学生のマンションに居座り続けるという設定は説得力なく非現実的ですが、コメディ小説として読めばまあそんな設定も許容されるでしょう。

料理を柱にしつつ良太の就活と成長を描いた小説でもあります。

最後は意外な展開であり、ちょっとほろっとさせられました。

ラベル:グルメ本 小説
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2016年06月04日

「食は三代 -東西食文化考-」出井宏和

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『住は一代、衣は二代、食は三代』という言葉があります。

文献によっては住と衣の順番が入れ替わっていたり住が財だったりしますが。

いずれにしろ食は三代目のようです。

味については孫の代になってようやく身につくというような意味のようですが、実際のところはどうなんでしょ。

あまり興味はありませんが。

さて、そんな言葉をタイトルにしたこの本ですが、内容はタイトルとほとんど関係ありません。(笑)

料理屋に生まれた著者は住む所と着る物には無頓着だった父親から、食に関しては子供の頃からつねに最良のものを食べさせられていたという内容の章につけられたタイトルです。

つまり一代二代を飛ばしていきなり三代であったと。

さすがに料理屋の二代目ですから、食については英才教育を受けていたんですね。

そんな著者のこれは食全般について語られた本です。

豊富な知識や食べ歩きの経験から、海外の食文化も紹介しておられます。

カラー写真がふんだんに掲載されているのが嬉しい。

ラベル:グルメ本
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2016年06月02日

「晴天の迷いクジラ」窪美澄

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デザイン会社に勤める由人は24歳。

といっても古ぼけた雑居ビルにある、48歳の女社長の野乃花を含め社員8人の小さな会社です。

しょっちゅうミスをやらかして社長から罵倒される毎日。

どうにか辞めずに耐えているのはデザインが好きだし、東京にはミカという彼女がいるから。

いまさら田舎に戻る気はありません。

ですが彼女にもふられ、ついに鬱病になります。

やがて会社は倒産することになり、由人は野乃花の自殺寸前に出くわします。

それを止めさせ、せめてその前にとニュースで聞いた湾に迷い込んだクジラを見に行こうとなります。

野乃花の故郷である半島に向かう由人と野乃花。

途中でやはり生きることに疲れた女子高生、正子を拾います。

それぞれ希望を失くした3人は湾に迷い込んだクジラを見てなにを思ったのか・・・・。

第1章では由人、第2章では野乃花、第3章では正子。

それぞれをメインにして描かれています。

あたりまえのことなんですけど、それぞれに人生はあるわけで。

それも誰もが輝く毎日を送っているわけではありません。

いや、そんな毎日を過ごしている人なんてほとんどいないでしょう。

ほんと毎日ってつらいですよね。(笑)

私はそう感じています。

第4章では話のまとめに入るわけですが、湾に迷い込んだクジラを目の当たりにし、地元の人たちに触れ、絶望を抱えた3人に陽が当たりじわじわと氷が解けていくような・・・・そんな印象を受けました。

絶望と希望、生の輝き。

つらくてもやっぱり・・・・がんばって生きていきませんと。

なかなか読み応えのある小説でした。

ラベル:小説
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