中編2編収録。
まず「築地川」。
祖母と姉と兄と暮らす萬里子は短大の美術部を出て、祖母の兄が経営する銀座の老舗「森むら」でハンドバッグや財布の図案の仕事をしています。
母親は家を出、父親はその後亡くなり、祖母に女手で育てられました。
萬里子は子供の頃から体が弱く、そんな妹を心配する兄の泰はつねに萬里子のことを気にかけています。
それは兄妹のあいだを越えていると思えるほど。
いっぽう祖母の勢以は萬里子には愛情がなく実に冷ややかです。
兄との仲がよすぎることにも嫌悪感を持っています。
萬里子は「森むら」での仕事がだんだんと認められ、やがて若社長の信男に見初められるのですが、やたら萬里子を連れまわす信男に泰はいい気がしません・・・・。
世間を知らなかった少女が社会に出て仕事をし、やがて兄から離れていく様を描いています。
萬里子と泰だけではなく姉も家を出て離れていくことになり、つまり家族がそれぞれ別々の道を歩んでいくわけですね。
いつまでも子供の頃のままではいられない寂しさがあります。
もう一編の「葛飾の女」は日本画家の滝川清澄に十七歳で弟子入りする真紀が主人公。
明治時代の話です。
そんな時代に女性が絵の世界で生きていくというのは並々ならぬ決心があってこそ。
真紀は絵を通してひたすら師の清澄を追いかけます。
それは師への敬愛であり、また恋愛でもあります。
一身に絵に打ち込む真紀ですが、やがて十九歳になり“売れ残り”を懸念する親に好きでもない相手と結婚させられてしまいます。
ですが真紀の想いがつねに師の清澄に向いていることに夫は激しく嫉妬します。
そんな夫にがんじがらめにされ絵も満足に描くことができず、まるで牢獄のような毎日。
離縁の申し出にも応じない夫に真紀が取った行動は・・・・。
悲しい話です。
時代が悲しい。
女という性が悲しい。
だからこその話ではあるのですが。
芯の強い女性、そして日本画という芸術を扱ったこの作品、さすがの芝木文学だなと思いました。
満足です。