2016年09月10日

「相剋の森」熊谷達也

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クマを狩る猟師マタギの親睦会を取材で訪れた編集者の美佐子。

会場で「今の時代、どうしてクマを食べる必要があるのか」とぶち上げます。

雰囲気の悪くなった会場を出た美佐子は、ロビーで吉本というカメラマンに声をかけられます。

そこで吉本が言った「山は半分殺してちょうどいい」という言葉が頭を離れません。

なぜ人間は動物を殺すのか。

マタギは自分たちが生きていくために果たしてクマを狩る必要があるのか。

山を殺すとはどういう意味なのか。

美佐子は彼らの懐に入り込んで取材を始めます・・・・。

「森」シリーズ3部作の第1弾です。

といっても3作に繋がりはありません。

むしろこの「相剋の森」は吉本が主人公だった「ウエンカムイの爪」の続編といえます。

最近は動物愛護が相当うるさく言われています。

もちろん動物の命は大切であり、人間の身勝手でそれを奪っていいわけはありません。

マタギに対しても当然その考えはぶつけられます。

しかし昔からそのような暮らしをしてきた人たちはいまだいるわけです。

クジラやイルカにしてもそれらを捕獲し、食料としてきた文化があります。

単純に第三者がしゃしゃり出て反対を唱え批判できるほど浅い問題ではないでしょう。

都会の理屈と自然の理屈は違いますしね。

ただどこかで折り合いはつけなければならず、この作品にもそういう問い掛けがあります。

シリーズ2作目の「邂逅の森」ほど緊迫感あるシーンはありませんが、しかし大自然を相手に生きる人間を描き、読み応えのある作品となっています。

ラベル:小説
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2016年09月08日

「松田聖子と中森明菜」中川右介

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現在は昔のように歌番組もなくなり、それに連れてアイドル歌手という存在も廃れてきました。

今はソロではなくグループが人気あるようですね。

さて、松田聖子と中森明菜。

1980年代を風靡したアイドル歌手です。

1970年代に山口百恵というスターがおり、80年に引退。

それと入れ替わるように登場してきたのが80年デビューの松田聖子です。

そしてやや遅れて82年にデビューしたのが中森明菜。

この年は『82年組』と呼ばれるアイドルが多くデビューしています。

松本伊代(デビューは81年)、小泉今日子、三田寛子、堀ちえみ、早見優、石川秀美など。

松田聖子と中森明菜、この2人は非常に対照的でした。

いかにもアイドルじみた演出で“ぶりっ子”とまで言われた松田聖子に対して、素のままで不本意ながらも“ツッパリ”のイメージを持たれた中森明菜。

この本では相反する2人が80年代という時代をどのように駆け抜けたのか、売り出すための業界の戦略や思惑、本人の思想も分析しながら活動の軌跡を検証しています。

松田聖子は昔のようにヒット曲を出すことはなくなりましたが、しかしいまだに一線で活躍していますね。

歌唱力も抜群ですし、紅白では大トリも務めました。

そしてその生き様はスキャンダルなどものともせず、多くの女性たちにも影響を与え、いまや女王としての風格さえあります。

いっぽう中森明菜、アイドル歌手としての活動だけではなくその生き様も対照的です。

自殺未遂がありました。

その後は精神的にも体調的にも上向きではないようで、表舞台からは姿を消しました。

2014年には紅白に出場し数年ぶりに歌手活動を再開したそうですが、その姿はかなり痛々しかったようですね。

2人の活動を傍から見ていれば“明暗”という言葉が浮かんでしまいます。

80年代というアイドル歌手にとっての黄金時代をくぐり抜け、新たな魅力を見せ続ける松田聖子。

袋小路に迷い込んでしまった中森明菜といったところでしょうか。

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2016年09月06日

「花祀り」花房観音

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京都の老舗和菓子屋『松吉』で菓子職人の修行をしていた二十二歳の桂木美乃。

ある夜、あこがれの和菓子職人で『松吉』主人である松ヶ崎に大人の世界を見せてやると連れ出されます。

一流の和菓子職人を目指すのなら艶がないといけないと。

美乃にいちばん欠けているものがそれだと。

運転手付きの車で町屋風の一軒家に連れて行かれた美乃。

座敷には旦那衆が集まっています。

有名な僧侶、お茶屋の若旦那、高名な茶道家、呉服屋の主人、大学教授、国会議員など。

「男を知らん女なんぞ、なにをやっても一流になれない」と松ヶ崎に言われ皆の前で裸にされ、あらゆる恥辱まみれの行為をされて処女を奪われる美乃。

その後数年、店で菓子の修行をしつつ定期的に一軒家で調教され、男たちの奴隷となります・・・・。

第一回団鬼六賞大賞受賞作です。

いやぁ、やらしいですねぇ。(笑)

作者が女性ということに驚きました。

読んで実は男性が女性を騙っているのではないかと思ったのですが、れっきとした女性です。

言葉にしろ行為にしろ、それほど男目線なエロさに私には感じられました。

男のエロツボを心得ておられるのか女のツボも同じなのか。

京都を舞台としているということで、女性器の名称も関西の3文字が使われているのが大阪人の私の股間に響きましたし。(笑)

しかしまあ粋だの艶だの修行だのといいつつ、ひたすら変態プレイに没頭する登場人物たちはある意味ギャグです。

スポ根マンガが見ようによっては笑いのネタになるのと同じようなものですね。

楽しめました。

この作家、今後も追いかけていこうと思います。

ラベル:小説
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2016年09月04日

「失踪日記2 アル中病棟」吾妻ひでお

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「失踪日記」の続編です。

自身の失踪とアル中入院を描いた前作は第34回日本漫画家協会賞大賞、第9回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第37回日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門とあらゆる賞を総ナメにしました。

今回はその前作の第3章「アル中病棟」に特化した続編となっています。

ただ単に前が売れたからもういっちょ描いてみようかではなく、話も絵もきっちりとレベルアップしています。

前作は1ページ4段のコマ割りでしたが、今回は3段。

なのでコマが大きく読みやすい。

そのぶんみっちりと描き込みされています。

大ゴマを使ったりしてメリハリもありますし、背景も丁寧で時間かけてるなぁと。

やはり絵が上手いですしキャラにも魅力があります。

特に女性キャラのかわいさは秀逸。(笑)

色褪せていませんねぇ。

最近のマンガ読者にはあまり名前を知られていないかもしれませんが、もともとカリスマ的な人気のあったマンガ家です。

さすがの実力だと思います。

見事に復活されたのは喜ばしいことです。

巻末にはとり・みき氏との対談も収録されています。

あ、俯瞰で院内を描いたカバーの絵もしっかりと目を通したいところですが、裏側も見逃さずにぜひ読みましょう。(笑)

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2016年09月02日

「食品業界残酷物語」北沢俊

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ひとくちに食品業界といいましてもその幅は広い。

飲食店もあれば製造業もあります。

小売店もありましょう。

さらにそれぞれにジャンルがあります。

それらすべてひっくるめて食品業界の実態について書かれたのがこの本です。

営業マンがいかに苦労しているか。

メーカーに対して横柄な大手スーパーマーケット。

コンビニや外食チェーンに振り回される卸問屋などなど。

なるほどその業界には業界なりの苦労があるのだなと思います。

普段何気なく利用しているコンビニやスーパー、飲食チェーンなど、裏側に回ってみるとやはり商売は熾烈なんですね。

ただこれはどんな業界でも同じですが。

表からはわからない苦労があります。

そんな業界の裏側を読ませてくれるのはいいのですが、化学調味料を取り上げた6章だけが異様に浮いています。

他の章はあくまで食品業界の実態を描いているのですが、6章では徹底した化学調味料批判とその製造会社批判。

ちょっとレールをはずれて暴走しているのでは。

それはそれで別の本で書くべきことで、この本の主旨ではないでしょう。

化学調味料の話になるとなぜか頭に血が上ってムキになる人が多い。(笑)

posted by たろちゃん at 03:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 『き』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする