2017年01月04日

「イトウの恋」中島京子

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中学校で郷土部の顧問をしている久保耕平が鎌倉の実家の屋根裏で見つけた郷土人の手記。
それは伊藤亀吉という通訳者が書いたものでした。
維新後間もない日本を旅するイギリス人女性探検家I・Bの通訳を務め、言い争いなどをしながらもずっと歳上の彼女に引かれていくイトウの心情が書かれています。
しかし手記は途中までで、イトウとI・Bがその後どのようになったのかがわかりません。
耕平は手記の続きを見つけるため、イトウの曾孫にあたる劇画原作者の田中シゲルを訪ねます。
最初はまったく関心を示さなかったシゲルですが、イトウのその後やイトウの孫であり自分を置いて出て行った母親のことが気になり始め、耕平と行動を共にすることになります・・・・。
読む前はタイトルからしてほのぼのとした恋愛小説かなと思っていたのですが、ちょっと違いましたね。
まずイトウの手記を大発見だと興奮するちょっとダサい耕平と、マイペースでつっけんどんな大女シゲルの組み合わせの面白さがあり、ここには恋愛の要素はありません。
独身で30歳後半になろうとするシゲルの“母親”というものに対する思いがじんわりと描かれています。
劇中劇のように間に挟まれるイトウの手記がシゲルの心を動かしていくんですね。
もちろんこの手記がいい。
自分の親ほど歳の離れた女性に惹かれていくイトウが真面目で不器用で強がりで。
憎めません。
デビュー作の「FUTON」でも田山花袋の「蒲団」を妻の側から書いた「蒲団の打ち直し」という作品をやはり劇中劇のように間に挟み、二重構造な作品となっていました。
この「イトウの恋」でベースとなっているのは実在した人物たちです。
「日本奥地紀行」(作中では「秘境」という作品名)の著者であるイザベラ・バードと通訳として同行した伊藤鶴吉がモデル。
実際にふたりの気持ちがどうだったのかわかりませんが、これをベースにしてイトウの恋心を描いた小説に仕上げたのは作者のセンスと力量ですね。
いい作品でした。
ラベル:小説
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 『な』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする