2017年09月09日

「翼はいつまでも」川上健一

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神山は青森県の中学3年生。
野球部に在籍しています。
といっても補欠ですが。
平凡な中学生ですね。
そんな神山はある日、三沢基地のアメリカ軍放送から流れてきた歌を聴いて落雷のようなショックを受けます。
ビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」。
興奮した彼は翌日大声でクラスの皆にその歌を披露します。
「♪ラースタアナーセイトウマートウーマーイガール!」
この日から神山の日々が変わります・・・・。
ビートルズの歌に勇気づけられ、学校生活、野球、家族、友情、恋愛、別れ、いろんなことを経験し乗り越えていく少年の姿が実に清々しくて爽やかです。
このような経験ができるのはまさしく中学や高校といった時代ですね。
大人になると世界が変わるような新鮮な経験とは縁がなくなってしまいますし。
そういった数々のエピソードを、楽しく苦く描いているこの作品、青春時代を遠く過去にしてしまった世代にとってはとてもノスタルジックで眩しい。
青く恥ずかしいような部分も含めて。
最終章では30年後の同期会ということで、大人になった神山たちが描かれています。
輝いていたあの頃を思い出しつつ、大合唱。
「♪カモンカモン、カモンカモン、カモンカモン、カモンカモン!」
「♪プリズプリーズミーオーイエーライップリズユー!」
大人が読むには内容的に稚拙という評価もあるかもしれませんが、いかにも川上健一らしい瑞々しい青春小説だと思います。
ラベル:小説
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2017年09月07日

「犬婿入り」多和田葉子

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北村みつこが小学生相手に経営する『キタムラ塾』は、子供たちに『キタナラ塾』と呼ばれ愛されています。
みつこは子供たちに『犬婿入り』の話をします。
黒い犬がお姫様のお尻をペロリペロリと舐めるという話。
8月に入り塾も夏休みになって間もないある日、二十七、八の男がキタムラ塾を訪れ、みつこのショートパンツをするりと脱がせて肛門をペロンペロンと舐め始め、そのあとは台所に駆け込んでもやしを炒め始めます・・・・。
なんともシュールな話ですね。
なんだか異界の物語のように思えます。
『キタムラ塾』の場所がそうですし、みつこ自体2年前にここに越してくるまでは何をやっていたのか得体が知れません。
そして『キタムラ塾』を訪れた太郎という男。
まさしく犬のような男です。
つまり犬婿なわけですが、シュールでユーモラスなこれは現代の民話といったところでしょうか。
ラベル:小説
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2017年09月05日

「サブカルで食う 就職せずに好きなことだけやって生きていく方法」大槻ケンヂ

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サブカルでメシを食っていくにはどうしたらいいか。
誰しも好きなことをしながら食べていければ万々歳なわけですが、なかなかそうはいきません。
ましてやサブカルなんて何やってんだかよくわからない、得体のしれない、フリーターの延長のような存在。
いわゆる“ギョーカイ”の人なんだろうけども、いろんなことに手を出しているうちになんだか名前が売れて、でもどう考えてもそれだけでメシ食っていけるか? というような肩書きの人たち。
著者の本業はロックミュージシャンですが、音楽以外にもいろいろと活動しておられ、世間からはサプカルな人と見られているようです。
そんな著者は小学生の頃からどのような生活を送ってきたのか。
中学時代は、高校時代は。
どのようにデビューのきっかけをつかんだのか。
自らの経験を語りつつ、サブカル世界の実態を書いておられます。
ま、俺はネクタイ締めてスーツ着て毎朝満員電車に乗って決まった時間に出勤してなんて人生はまっぴらだ、という人がこのような道へ進んでいくんでしょうね。
目指すというよりも気が付いたらそのような立場になっていたみたいな。
なんだか好きなことやってラクそうでお金稼げていいな、なんて思われがちですが、当然そんなボロい商売があるわけはなく。
やはり努力はいりますし運も必要。
そしてなんだかんだいいつつもセンスといいますか才能といいますか。
走り続けていくにはそれは必須でしょう。
平凡にサラリーマンやっているほうが道のりとしては簡単でしょうね。
ラベル:エッセイ
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2017年09月03日

「書店ガール4 パンと就活」碧野圭

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新興堂書店でアルバイトをしている高梨愛奈は就職活動を控えた大学生。
周りが積極的に就職活動している中、愛奈はいまいち気持ちがはっきりしません。
本は好きですが、このまま書店に就職したとして未来はあるのか。
一方、駅ビルの書店で働く宮崎彩加は書店員5年目です。
大学時代からこの店でアルバイトし、卒業後は契約社員として勤めています。
愛奈より4歳年上ですが友達として親しく付き合っています。
正社員への登用とともに、新しくオープンする七坪ほどの駅中書店の店長を任せられることになるのですが。
2人の今後は・・・・。
シリーズ第4弾。
これまでは西岡理子と小幡亜紀のコンビでしたが、今回からはその2人は若い人たちにとって憧れの存在となり、次世代というべき愛奈と彩加がメインとなっています。
愛奈の就活、そして彩加の書店員としての成長を柱に、パン屋の大田英司という男性との接点があります。
寂れた商店街で書店をしている彩加の叔母の店を、大田のパン屋と提携してブックカフェにしないかという話が持ち上がっているんですね。
最初は太田に対してあまりいい感情を持たない彩加ですが・・・・。
サブタイトルの「パンと就活」というのはここから来ているわけです。
いつもながら登場人物が悩み葛藤しつつ成長していくという大きな幹があります。
そして女性が働くことの意味、本への愛情といったしっかりとした枝。
それらを描きつつちらっと恋愛の要素も隠し味程度に加え、実在の作家の名前や作品を多数登場させ、上手く現実とシンクロさせて読み応えのあるエンターテイメントとなっています。
毎回ただエピソードを羅列するだけではなく、しっかりと物語自体が進歩しているのがいいですね。
ラベル:小説 本・書店
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2017年09月01日

「味覚極楽」子母沢寛

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明治・大正を生きてきた様々な人たちの語る味覚についての話。
その世代の人たちは味覚を通じ、何を語るのか・・・・。
序や後記の日付を見ますと昭和32年。
しかし記事が書かれたのは昭和2年で、東京日日新聞に連載されていたもののようです。
今から90年前ですか。
内容は作家である著者が新聞記者時代に各界の人たちに食について語ってもらい、それを聞き書きし、著者のコメントや後日談を添えたものです。
登場する人たちも子爵だとか伯爵だとか男爵夫人だとか、陸軍中将なんて人もいらっしゃいます。
いまとなっては聞くことのない肩書きの人たちがずらり。
その他の人たちも社会的な立場のある人たちばかりです。
読みましても「はぁ、そうでございますか」としかいいようがありません。(笑)
いや、肩書きがどうこうとかではなくて、この当時でそこまでのこだわりを聞かされ(読まされ)たらひれ伏すしかないでしょう。
現在のように飽食の時代ではありませんが、やはり食にこだわる人はこだわっていらっしゃる。
もちろんそれは今の若い人たちがキャッキャ言いながら話題にしているようなレベルではなく。
食にこだわるにもそれなりに社会的経済的な立場があってこそでしょうし。
今のように猫も杓子も食べ物について語れるという時代ではありません。
そんな中でしっかりと味覚に対してのこだわりを語っておられるんですね。
内容についてちらりと書きますと、面白かったのは銀座千疋屋主人の章で、「東京の料理屋ホテルなどで使う果物はあまりよくないものばかり。あんなものを客にすすめるのは感心しない。そこへ行くと星ヶ岡茶寮の主人は毎日自分で出かけて来て、その日のいい果物を持って行かれるが、これには私も感心している」という発言をしておられます。
この星ヶ岡茶寮の主人というのはいうまでもなく北大路魯山人
評価されています。
ですが医学博士の竹内薫兵氏はこう書いておられます。
「北大路君は偉い人だが、何だかこう見せつけるというようなところがあっていけない。(略)わざとらしい嫌味を私は感ずるのである」
なるほど、芸術に関してはちょっとアクが強かったようで。
「しかし、このうちの果物だけは、何時行っても感心する。まことに立派なものである」
ここで銀座千疋屋主人の発言と見事に一致するのですね。
こういうリンクが読んでいて面白く思います。
あとはまあ手巻き寿司についての記述もあったりしまして、
手巻き寿司の歴史に関しては諸説あると思うのですが、この時代からぼちぼちとそのような店が出てきたということが書かれています。
もっと後の時代になって某寿司屋が手巻き寿司発祥の店と語られていたりもしますが、いま一度検証が必要なのではと思いました。
ラベル:グルメ本
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『し』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする