2017年11月22日

「なんとなく、クリスタル」田中康夫

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時代はバブル景気前の1980年。
大学生でモデルのアルバイトをしている由利を主人公に、当時の風俗を背景にして“今を生きる”若者たちを描いています。
発表当時にも読んだのですが、なんだかよくわかりませんでしたね。
あまり印象に残っていない。
そりゃまあそうでしょう。
舞台は東京でいわゆる流行の最先端を生きる若者たちの話ですから、当時の私にはまったく縁のない世界だったわけで。(笑)
それは今も変わらないのですが、こちらも年齢を重ねたぶん俯瞰的客観的に読むことができました。
いや、面白いじゃないですか、これ。
話の内容は空っぽです。
なんにもない。
主人公は女子大生でモデルで、先端のファッションに身を包み、流行のスポットで遊ぶ。
だからどうなのと。
しかしそれこそが作者の書きたかったことで、当時のリアルな若者の姿がここにあります。
皆が毎日小難しいことを考えて生活しているわけではありません。
豊かな時代、とりあえず毎日オシャレに楽しく過ごせればいいではないかと。
眉間にしわ寄せて人生を考えるような純文学に対してのアンチテーゼな小説ですよね。
刹那的に生きることへの虚しさなんてものは、はなっからありません的な。
で、ページ構成がこの小説の大きなポイント。
右ページに本文、左ページに注釈。
近代小説にはよくこの注釈が付いており、巻末にまとめて掲載してあったりします。
解説で高橋源一郎氏が「どう読めばいいのだろうか」と書いておられるように、該当する箇所ごとにその都度左ページに目を走らせるのか、右ページを読んでから左ページをまとめて読むのか。
あるいは本文を読み切ったあと最後に一気に注釈を読むべきなのか。
私は最初その都度注釈を読んでいたのですが、そうなると話がぶつぶつと途切れてしまうんですよね。
リズムに乗れない。
なので本文を読み切ってから改めて本文を眺めつつ注釈を読みました。
というか、これむしろ注釈こそがこの小説のメインじゃないでしょうか。
これを書きたいがために本文を書いたような。
なので本文は別に内容なんてなくていいんです。
博学でシニカルなこの注釈、デビュー作にしてすでに田中康夫の本領発揮といったところです。
続編として2014年に「33年後のなんとなく、クリスタル」が出版されています。
これもぜひ読んでみたいですね。
ラベル:小説
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『た』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする