2018年08月21日

「匂いのエロティシズム」鈴木隆

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嗅覚は視覚、聴覚、味覚などに比べて、論じられたり教育されたりすることは少ないといわれています。
なるほど視覚なら絵画、聴覚なら音楽、味覚なら料理、それぞれ芸術として立派な1ジャンルですよね。
ところが嗅覚にはそれらしきものがない。
日本には香道というものがありますが、あまり知られておらず一般的ではないですね。
そんな匂い(嗅覚)について、タイトルにもあるようにエロティシズムという観点から論じたのがこの本です。
体臭というのは本来その人の個性なわけですが、最近ではそれが嫌われ抑えられる傾向にあります。
デオドラント商品などがそれですね。
だからといって匂いは必要ないのかといえばそんなことはなく、体臭を消して香水をつけたりしている。
面白い傾向です。
動物でいえば匂いはセックスアピールです。
発情期になると匂いで異性を惹きつけたりします。
しかし人間はその匂いを消してしまっている。
動物から離れるほどに人間は匂いを消してしまうようになりました。
ですがそれを取り戻すかのように異性を惹きつける媚薬だのフェロモン入り香水だのをせっせと開発していたりします。
矛盾した面白い現象です。
動物にとっては生殖のための本能である匂いが、人間にとっては意識を伴うエロスに移り変わったと。
匂いにエロティシズムを感じるのは間違いなく、ただどのような匂いにそれを感じるかは人それぞれ。
もしかしたら視覚や聴覚よりも根本的なところに訴えかけてくる感覚かもしれません。
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2018年08月19日

「杳子・妻隠」古井由吉

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山登りをしていた青年が谷に下ります。
その深い谷底にひとり座っていたのが女子大生の杳子です。
どう考えてもまともな精神の持ち主ではありません。
かといってあからさまに異常というわけでもないのですが。
それから3か月後、彼はまた偶然に駅で杳子と再会します。
そこから彼と杳子は定期的に会うことになるのですが・・・・。
精神を病んでいる女子大生と青年の恋愛です。
青年は杳子の庇護者的存在なのですが、しかし客観的な視線(読者の視線)で見ますと、彼も杳子ほどではないにせよ同じ世界の人間なんですよね。
そしてどちらも現実感というか生活感がない。
特に彼のほうはひたすら杳子の相手をしていますが、まったくそれ以外の生活が描かれていない。
ひたすら物語は二人の世界を描いています。
世界が閉塞している印象を受けますね。
併録されている「妻隠」はアパートに住む若夫婦の夫の視線で語られています。
アパートの隣には一軒家があり、建築の仕事をしている男たちの寮です。
荒くれな男たちの視線に妻はいつも晒されています。
だからといって別に事件が起こるわけでもないのですが、全体に不穏な空気が流れていますね。
住居のシチュエーションがそうですし、夫婦のつながりのバランスもどうも不安定です。
どちらの作品も暗く狭く、そのぶん世界は濃密です。
ラベル:小説
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2018年08月17日

「パイプのけむり選集 食」團伊玖磨

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本業は作曲家ですが、名エッセイストとしても知られた著者。
そんな著者が雑誌連載していた「パイプのけむり」シリーズから食に関するエッセイだけを厳選したのがこの本です。
連載のスタートが1964年とのことなので、初期の作品は今から50年以上も前になりますね。
ごく身近な料理から当時としてはまだまだ一般的になっていない料理、そして海外でなければ食べられない料理まで、幅広く取り上げて語っておられます。
今では猫も杓子も食べることに能書きを垂れているわけですが、やはり当時は事情が違う。
そのような時代の中で海外も含めて幅広くいろんな料理を食べ歩き、それについてどうこう言うなどなかなか一般的にはできることではありませんでした。
やはり本気で食に対しての興味を持ち、またそれなりの立場でありませんと。
なので連載初期にはもしかしたら当時としてはちょっとハイカラな内容であったかもしれません。
だからといってこの本の内容は決して大げさなものではなく、リラックスして楽しめる食エッセイとなっいます。
新しい記事は2000年代のようですしね。
それでもやはり流行りの店や料理を追いかけるような内容ではなく、きちんとした姿勢で食について語っておられるのは見識でしょう。
ラベル:グルメ本
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2018年08月15日

「鍵のない夢を見る」辻村深月

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地方の街で暮らす女性たちを描いた5編収録の短編集。
どれもちょっとイタイ女性が主人公です。
いや、単純にイタイと言ってしまっては身もふたもなく底が浅くなってしまうのですが。
「仁志野町の泥棒」や「芹葉大学の夢と殺人」などは主人公そのものはイタくないのですが、付き合う友達や男がどうしようもないんですよね。
でもそんな相手に振り回されてしまうというか、相手のペースに呑まれてしまうあたりが結局はイタイわけで。
「美弥谷団地の逃亡者」も同じくでしょうか。
「石蕗南地区の放火」なんてのはまさしく主人公の女性がイタ過ぎです。
勘違いしている女の徹底ぶりが実にいい。(笑)
作者もなかなかシニカルです。
最後の「君本家の誘拐」にもちょっとそんなところはあるのですが、しかし育児ノイローゼだとかこれは経験した人にしかわからないものでもあり、単純に主人公の迂闊さを責めるわけにもいきません。
どれもそれぞれ無難なレベルでまとまった短編集だとは思うのですが、作者はこれで第147回直木賞を受賞しているんですよね。
そうなると「ん?」と首をかしげたくなります。
単純にこれが直木賞にふさわしいのかという疑問がありますし、直木賞受賞作というのは作者にとって代表作として今後ずっと付いて回るわけで。
そう考えるとこの作品集を作者の代表作としていいのかと。
他の作品は読んでいませんのでなんともいえないのですが。
ちょっと弱いんじゃないですかね。
これから他の作品も読んでいきたい作家さんですので、自分なりに検証していきたいと思います。
ラベル:小説
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2018年08月13日

「解体新書ネオ」永井明

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タイトルが解体新書というくらいですから、体の各パーツについて書かれたメディカル・エッセイです。
頭髪から始まりまして、脳、頭蓋骨、目、歯、内臓、生殖器、血管、血液・・・・。
とにかく片っ端から体の各パーツを取り上げ、専門的な説明をし、しかしユーモラスな比喩を駆使して面白おかしく読ませてくれます。
こういうのを専門書で読めば素人にはちんぷんかんぷんなわけですが、楽しく勉強できるのはありがたいですね。
例えば子宮の大きさは親指ほどしかないなんて記述を読んでびっくりです。
赤ちゃんが育つ場所ですから、もっと大きなものかと思っていましたが。
まあ普段はそんな大きなスペースは必要ないですもんね。
それにしても人体の不思議といいますか、メカニズムには感心します。
よくもまあこんなに完璧なものを作り上げたものだなと。
それらを維持するためにもやはり体は労わらないとだめなんですね。(笑)
ラベル:エッセイ
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