2019年07月10日

「グレイシー一族に柔術を教えた男 不敗の格闘王 前田光世伝」神山典士

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柔術というと格闘技ファンならグレイシー柔術を思い浮かべるのではないかと思います。
もちろん元々は日本の武道ですが、いまや日本よりもあちらのほうが本家という感もあります。
そのグレイシー一族たちに柔術を伝えたのが前田光世という柔道家です。
この本ではそんな前田の半生が書かれています。
世界を転戦し、最終的にはブラジルのアマゾンこそが自分の後半生を賭ける地だと63歳で亡くなるまでこの地で過ごしました。
前田が世界を渡り歩いたのはもちろん柔道を広げるためですが、後半生ではブラジルに移民する日本人のために全力を注ぎました。
むしろこの本では格闘家としての前田よりも、移民たちの私設領事としての前田の印象のほうが強い気がします。
なので格闘技本として読むとやや肩透かしかもしれません。
もちろん世界各地での異種格闘技戦について書かれてはいますが、試合の内容を詳しく描写しているわけではありません。
しかし前田が柔道の普及のために残した功績や、海外に移民した日本人たちに与えた勇気や希望といったものがよく伝わる内容です。
格闘家としてだけではなく、人間としてもスケールの大きな人だったんですね。
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2019年07月08日

「弱法師」中山可穂

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中編3編収録の作品集です。
どれも能をモチーフにしているとのこと。
脳に腫瘍のある子供とその母親を愛し、エリートの道を捨ててまで二人に尽くした医師。(弱法師)
愛する女性編集者のためにひたすら命を削って小説を書き続けた青年作家。(卒塔婆小町)
父と母と叔母の不思議な関係に戸惑いつつも心を熱くする高校生の少女。(浮舟)
中山可穂といえば女性同士の激しい恋愛を書き続けてきた作家さんですが、この作品集はちょっとベクトルが違います。
といっても、どれも熱く激しい恋愛であることには変わりないのですが。
叶わぬ思い、愛する人の死、それらのテーマが濃密に描かれています。
電車の中で読んでいて思わず涙をこぼしてしまったほど。
寡作な作家さんですが、そりゃこのテンションの作品をほいほいと書けるものではないでしょう。
それぞれの作品がまさに渾身の一作といえます。
ラベル:小説
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2019年07月06日

「黒白 剣客商売 番外編(上・下) 」池波正太郎

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御前試合で秋山小兵衛に敗れた小野派一刀流の道場を構える波切八郎。
なんとしても小兵衛のような剣客と真剣での勝負をしたい。
八郎は小兵衛に真剣勝負を申し入れ、小兵衛は2年後にと約束をします。
しかし八郎は辻斬りをしていた弟子を成敗したため自分にはもう人に教える資格はないと出奔し、それをきっかけに身を持ち崩し、人斬りが商売のようになってしまいます。
こんなことでは秋山小兵衛の前に姿を現すことはできない。
勝負の約束を破るなど剣客として許されることではありません。
よほどの事情があってのことだろうと小兵衛は察するのですが。
やがて八郎と小兵衛は思わぬ形で交わることになります・・・・。
シリーズ番外編です。
旧版と新装版なので表紙がちぐはぐですが。(笑)
上下巻合わせて1000ページ以上になるのでシリーズ最長編ですね。
やはりこれだけの枚数のせいか八郎と小兵衛の二人の視線で書かれており、やや落ち着きがない気がしないでもない。
物語は小兵衛が三十代前半の頃と若いのですが、あまり本編の小兵衛と変わらない気がします。
すでに老けているんですね。(笑)
波切八郎のキャラがいい。
小兵衛と対峙する立場ではありますが、決して悪人ではなく、善人であるがゆえの悲劇といいますか。
根を詰めず、もう少し大らかな生き方ができなかったものかと思います。
だからこそドラマになっているのですが。
相変わらず作者が作品の中にしゃしゃり出てきて現代の話をするのだけはどうも白けてしまいます。
ラベル:時代小説
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2019年07月04日

「食べもの屋の昭和 伝えたい味と記憶」岩崎信也

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元号が令和になりまして、平成を挟んでその向こうの昭和というと、昔な時代という印象がますます強くなりました。
この本では老舗といわれる食べもの屋を取材することにより、昭和の前半あたりまでの様子を聞き取れるかという試みをしておられます。
出版されたのが平成20年。
昭和が終わって20年ということです。
その当時の店主に店の歴史を訊き、覚えておられる限りの昔の話を聞いておられます。
昭和というのは歴史的にも戦中戦後、高度経済成長などがあり、目まぐるしく文化が変動していった時代でした。
なので昭和という時代を経験している人たちにとっては独特の思い入れやノスタルジーがあるんですよね。
今後数十年経って振り返っても、平成という時代にはそのような特別感は無いように思います。
さて、この本で紹介されている食べもの屋は29店。
東京では天ぷらの「てん茂」、そばの「池の端藪蕎麦」、うなぎの「野田岩」、どじょうの「伊せき」など。
私の住む関西では小鯛雀鮨の「すし萬」、すっぽんの「大市」などが紹介されています。
老舗といわれる名店の重みがずっしりと伝わります。
しかしただ単に店の歴史を知るだけではなく、当時の食文化、風俗を知ることができるのが貴重です。
それでもやはり時が流れるにつれ、取材に応じられた店主は亡くなられたりしていますし、惜しまれながら閉店してしまった店もあります。
ますます昭和という時代がノスタルジックに、幻になっていくような気がしてしまいます。
サブタイトルに「伝えたい味と記憶」とありますように、ほんと残していきたいですよねぇ。
ラベル:グルメ本
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2019年07月02日

「コンビニ人間」村田沙耶香

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古倉恵子36歳。
大学生の頃からコンビニでバイトを始めて18年。
就職もせず結婚もせず、ひたすらコンビニでバイトをしてきました。
コンビニの仕事に生きがいすら感じています。
そんなある日、白羽という理屈だけはいっちょ前な男がバイトで入ってきて・・・・。
コンビニという舞台がいかにも現代です。
そしてコンビニ店員というとマニュアル通りの接客というイメージがありますよね。
主人公はまさしく典型的なそれで、食事さえもひたすらコンビニの商品です。
そんな生活になんの抵抗も不満もなく、むしろ満足さえしています。
フリーターなんて言葉はもう古いですけど、そうやって就職もせずバイトで生計を立てている人、マニュアルにはまったような人を皮肉っているのかといえば、そうでもありません。
主人公はある意味プロです。
コンビニバイトのプロ。
それ以外の世界では社会不適格者ともいえるのですが、コンビニの仕事においては抜群に能力を発揮します。
淡々とコンビニの仕事に邁進するこの主人公の人生観とはいったいなんなのか。
白羽という異物とぶつかったとき、恵子はどのような対応をするのか。
かなりデフォルメはされていますけど、こういう若い人、現実にいそうです。
そう考えますと「コンビニ人間」というタイトルは強烈ではありますが、実はサラリーマンにもごく普通にいるような気がしますね。
ラベル:小説
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