2019年12月11日

「素晴らしい一日」平安寿子

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デビュー作である表題作を含む6編を収録。
エリートの彼氏は使い込みがばれて会社をクビになり雲隠れ、自分が勤めていた会社も倒産して失業者になった幸恵。
30歳でこれといった特技もない女性を採用する会社もなく、貯金は減る一方です。
そこで思い出したのが元カレだった友朗に2年前に貸した20万円。
経営している小さな会社が行き詰まり、幸恵に借金を申し込んできたのです。
ちゃんと借用書も書いて実印に拇印まで押したにもかかわらず、1週間後にドロン。
当時はまあしょうがないやと思っていた幸恵ですがさすがに現在の状況でそんなことを言ってられず、友朗の現在の居場所を突き止め借金を返してと迫ります。
今でも2000万円近い借金がある友朗にそんなの返せるわけがありません。
それじゃあこれからお金を貸してくれそうな心当たりを一緒に回ろうと、何人もの女性のもとを訪れる2人ですが・・・・。
2人してお金を借りて回るという1日を描いています。
調子のいい楽天的な友朗、それに振り回される幸恵。
なぜ貸したお金を返してもらうために自分も一緒になって知らない女たちに頭を下げなければならないのか。
しかし友朗の天性のキャラのせいでしょうか、ようやく1日を終えた時にはなぜかハッピーな気分に。
チャラいけど憎めない男、それを許容してしまう心が広く逞しい女。
なんというか女のほうが一枚上手的な微笑ましい(?)設定は他の収録作にも見られます。
表題作は1日の出来事を濃密に描いているわけですが、作者が敬愛しておられるアン・タイラーの「ブリージング・レッスン」もそういえば何気ない1日を長編に仕立てた作品でしたね。


ラベル:小説
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2019年12月09日

「潜入ルポ ヤクザの修羅場」鈴木智彦

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つい最近、山口組若頭である高山清司氏が出所したというニュースがありました。
この本はその高山氏が逮捕されるところから始まります。
こういうのにも警察とマスコミとの駆け引きといいますか、台本があったりするんですね。
さて、ヤクザ。
ここでいうヤクザとは暴力団のことですが、一般の人たちにとっては関わり合いになりたくない存在ですよね。
ですがこの著者は興味を持ち、ヤクザ専門誌の「実話時代」編集部に入社します。
その後は「実話時代 BULL」の編集長を経て、フリーライターに。
どっぷりと(?)その世界に浸り、その世界を描いたのがこの一冊です。
タイトルに「潜入ルポ」とあるのですが、そんなこっそり取材したというような内容ではありません。
新宿で有名な『ヤクザマンション』に事務所を構え、毎日のようにヤクザと顔を合わせコネを作ります。
あるときなど上からヤクザが“降ってきて”、なんとバルコニーの鉄柵に突き刺さっていたとか。
もちろん119、110に通報して大騒ぎ。
しかしそんな中でも著者は警察官の対応をきっちりと観察しておられます。
愚連隊の帝王と呼ばれた加納貢と懇意にしていた、というより生活の面倒を見ていた話なども書かれています。
大阪は西成の盆中に潜り込んだり、飛田にマンションを借りてちょんの間に上がってみたり覚醒剤の売人に接触してみたり。
私も西成はよくうろつきましたが、実際この界隈覚醒剤に接触するのは非常にたやすい。
ま、私はそういうのに興味はなく朝から飲み歩くだけでしたが。
とにかく体を張って経験してきたその内容は生々しく迫力に満ちています。
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2019年12月07日

「ごくらくちんみ」杉浦日向子

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珍味をネタに酒を絡め、様々な人間模様を描いた68編の掌編小説。
それぞれにイラストが添えられていますが、もちろんそれは漫画家である著者の手によるものです。
小説の内容はさほどのものでもないのですが、1編1300字、文庫本で約2ページほどですからまあやむを得ないでしょう。
ですが珍味の描写はなかなか魅力的。
そして珍味といえばやはり酒。
きっちりと酒が添えられているのが酒飲みにとっては嬉しいじゃないですか。
しかしほんといろんな珍味を紹介しておられますねぇ。
初めて知る物も多数。
ただ単に私が勉強不足なだけかもしれませんが。
この本と同じアテというわけにはいきませんが、思わず酒に手が伸びてしまいます。(笑)
ラベル:グルメ本 小説
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2019年12月05日

「名人 志ん生、そして志ん朝」小林信彦

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2001年10月1日、古今亭志ん朝死去。
この報に著者は10代で父親を亡くしたとき以上に衝撃を受けたといいます。
そんな著者が志ん朝、その父親である志ん生と、二代にわたる名人について語ります・・・・。
志ん朝が亡くなったときは東京落語も終わったという人もいたくらいで。
まさしく巨星墜つの感でしたね。
文学でいえば中上健次が死去したときのような喪失感でしょうか。
本の内容に関しましては、それまで著者が書いてこられた志ん生や志ん朝についての集積です。
思い入れがひしひしと感じられます。
それだけではなく、東京落語の変遷として読むこともできるでしょう。
本の内容とは関係ないのですが、私もいちばん好きな落語家はとなりますと、やはり志ん朝ですね。
私は大阪の人間ですが、あの粋な江戸言葉にシビレます。
口調はチャキチャキでありながら、はんなりとした色気もある。
上手く説明はできませんが(説明なんか不要でしょうが)、まさに名人と言うにふさわしい人だったと思います。
もしあと10年20年生きておられたら、どんな落語を聴かせてくれたのか。
いまさら言ったところで詮無い話ですが。
上方では桂枝雀が好きでした。
今も好きですが。
この人の死も早すぎましたね。
現役の落語家では東京落語の柳家喬太郎がいい。
新作落語が面白く、古典もきっちりと演じられる実力派。
桂枝雀以上に落語の枠を突き抜けています。
話が逸れました。
でもやはり東京落語の正統派といいますか、志ん朝、いいなぁ。
しょっちゅうネットで拝聴しております。
あ、志ん生につきましては語るほど知らないので失礼。
それを言うと落語自体、たいして知らないのですが・・・・。
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2019年12月03日

「最悪」奥田英朗

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従業員2人の小さな鉄工所を営む川谷信次郎。
孫請けの細かい仕事でなんとか食いつなぎ、経営はかつかつです。
藤崎みどりは20代の銀行員。
毎日同じことの繰り返しに飽き飽きし、憂鬱な日々です。
野村和也はプータロー。
パチンコとカツアゲでぶらぶらと生活しています。
3人にはそれぞれ悩みがあります。
川谷は騒音による近所とのトラブルや資金繰り、みどりは家庭に問題を抱え、上司からセクハラを受け社内で気まずい立場となります。
和也はトルエンを盗んで売りさばこうとしましたがヤクザとトラブルに。
そんな3人の人生が交差してとんでもない方向に転がっていきます・・・・。
640ページの長編ですが、飽きることなく読ませますね。
ラスト150ページあたりまで3人がどのように交わるのかまったくわかりません。
引っ張ります。
そのあとは一気ですが、極限状況に追い込まれた3人を見ているとまるでコメディのよう。
本人たちは必死なのですが、言動は滑稽です。
しかしこういうのを読みますと、地味でもなんでも毎日まじめにコツコツというのが人生として正解なのかなと思います。
ラベル:小説
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