2020年04月09日

「はたらくわたし」岸本葉子

CIMG3623.JPG

『働く意味って、何だろう。何のために、働くのだろう。』
そんなことは考えないで働き始めたという著者。
でも学生時代にそんなことを真剣に考える人なんてほとんどいないんじゃないですかね。
夢を抱いて就職する人たちは大勢いても。
たいがい就職して「こりゃ学生のときのようにお気楽に過ごせる世界じゃないな」と気付いたり、「思っていたのと全然違う。もっと華やかな世界を思っていたのに」とか。
『楽しくなければ仕事でない、という、うたい文句を聞くことがあります。私はそうは思いません。』と著者は書いておられます。
私もまったくその通りだと思います。
『楽しくなければ仕事でない』なんてのは理想論です。
毎日仕事していて楽しくて仕方がないなんて人は、よほどラクして濡れ手に粟で稼ぎまくり笑いが止まらない人か、頭の中がお花畑の人でしょう。
明日のことを考えたら眠れなかったり、胃が痛くなったり。
こんなことをあと何十年も続けていかないといけないのかと鬱になったり。
今日辞めよう、明日辞めようと、ひたすら思い続けたり。
そんなのが現実でしょう。
とにかく働いてお金を稼ぐというのは大変なことです。
しかしまったく嫌なことばかりではなく、もちろん喜びもあります。
著者は全力を尽くした仕事をして『ああ、この仕事をしていてよかった、と心から感じる瞬間がある。』とも書いておられます。
ここなんでしょうね。
この喜びがあればある程度の辛さは我慢できる。
なにもなければ、こんな仕事やってられるかとなる。
感じ方は人それぞれでしょうけど。
さて、著者はエッセイスト。
テレビ出演や講演などもしておられます。
なので物書きであり、メディアへの露出もあるお仕事の人です。
そんな著者の生活が日記形式で語られています。
生真面目な著者の性格が知れます。
私などはまったくその通りだと思いながら読みましたね。
多数の著作があり名も知られた人ではありますが、驕ることなくつねに自身を省みておられます。
このあたりがもう30年以上もこの世界でやってこられた理由のひとつではないでしょうか。
このような仕事を目指しておられる方ならご一読を。
しかしタイトルが「はたらくわたし」とひらがななのが微笑ましく著者らしいですね。
これが「働く私」だと硬くて台無しです。
ラベル:エッセイ
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『き』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月07日

「負け逃げ」こざわたまこ

CIMG3622.JPG

隣町に行く国道沿いに何軒もラブホテルがある村。
逆にいえばそれしかないようなド田舎です。
夜中にそんな国道をウォークマンで大音量の音楽を聴きながら滑走するのが好きな僕。
ある夜、僕は国道でクラスメートで足の悪い野口という女子生徒と遭遇します。
彼女を自転車の後ろに乗せ、こんところでなにをしていたのか尋ねると、ラブホテルで男とセックスしていたとのこと。
村いちばんのヤリマンといわれている彼女は、村に復讐するためにすべての村の男たちとセックスするのだと言います・・・・。
「僕の災い」というデビュー作を筆頭にした連作形式の長編です。
このあと主人公を変えて話が進んでいきます。
友情、いじめ、不倫、家庭崩壊、出会い系での性交渉・・・・。
いろんな視点でいろんなテーマが描かれています。
ド田舎の村という閉ざされた空間での閉塞感。
もがくように村にしがみつき、あるいは飛び出していく人たち。
村という舞台設定だからこその話ともいえますが、しかし都会でも変わらないのではないかという気がします。
誰しも常に自分の居場所はここなのか、という疑問を持っているんじゃないでしょうか。
それは住居ということだけでなく、アイデンティティとして。
でも結局どこにも出口や理想の地というものはないんだろうな、と。
ラベル:小説
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『こ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月05日

「忙しい日でも、おなかは空く。」平松洋子

CIMG3621.JPG

写真とレシピ付きの食エッセイです。
店の食べ歩きでなく、高級な珍味の披露でもなく。
ごく普通の素材を使った料理がエッセイとして紹介されています。
例えば最初に紹介されているのが「塩トマト」。
その名の通り塩とトマトだけの料理です。
レシピは、
①トマトをくし型に切ってボウルに入れ、ふたつまみの塩を振りかける。
②少し揺すりながらよく混ぜ合わせ、10分ほどそのまま置く。
以上です。
なんとシンプル。
著者曰く、「ただそれだけのことなのだが、切ったトマトに塩をかけたものとあらかじめ塩をなじませたトマトの味は、まったく別物だ」とのこと。
私はまだ試していないんですけど、そうですね、普通トマトを塩で食べる場合、塩をかけながら丸かじりします。
あるいは切ったトマトを食べる寸前にパラパラと塩を振って食べますね。
10分置く。
そういう手もありましたか。
あるいは「干物サラダ」。
あじの干物を焼いてほぐし、4~5センチに切った三つ葉の上に乗せ、炒りごまとすだちの絞り汁をかける。
ベーコンやハムのサラダなんてありますが、それを干物に置き換えています。
サラダに干物を使うという発想はなかなか無いですね。
私は生野菜にじゃこをかけてポン酢で食べるというのが定番ですけども。
料理以外にも、もちろん道具についても書いておられます。
片口、土鍋、急須など。
うん、決してブランドとかではなく、自分の好み、価値観、使い勝手の良さで道具は決めたいものですね。
ラベル:グルメ本
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『ひ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月03日

「人もいない春」西村賢太

CIMG3620.JPG

短編集です。
6編収録。
主人公はおなじみ北町貫多。
名前からもわかるように作者の分身ですね。
表題作では貫多は製本所に勤めています。
中学を出て2年ほど。
日払い週払いの仕事で凌ぐその日暮らし。
ろくでもないくせにプライドだけは高い貫多は、仕事でミスを注意された職工に恨みを持ちます。
ある日の昼休みに気の短い貫多は、その職工に「能なし」などの啖呵を切ります。
その結果はもちろん仕事の契約打ち切りで。
こんな調子で、しかし自分を正当化して日々暮らしていく貫多です・・・・。
いつものごとく作者をモデルとした北町貫多のシリーズです。
小心者のくせにプライドだけは高くキレやすい。
なのでモテないくせに奇蹟的に同棲してくれている秋恵にはボロクソです。
毎度同じパターンなんですけどね。
マンネリといえばそうなんですけど、でも読ませられてしまいます。
今回、「悪夢 ― 或いは「閉鎖されたレストランの話」」というのがありまして、これは擬人化したネズミを主人公とした話です。
いつもの私小説とは違い、なんでこんなのを書かれたのかわかりませんけど。
寓話的な雰囲気の話ですね。
まあいつまでも北町貫多というわけにはいかないでしょうから、このような試みもいいかと思います。
あまりらしくないですけどね。(笑)
ラベル:小説
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『に』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月01日

「食堂つばめ4 冷めない味噌汁」矢崎存美

CIMG3618.JPG

シリーズ第4弾です。
連作短編5編収録。
表題作は「冷めない味噌汁」です。
俊太郎はサラリーマン。
サービス残業、休日や夜中の呼び出しは当たり前。
何日休んでいるんだか何日寝ていないんだかの日々です。
いわゆるブラック企業ですね。
過労が原因で倒れ、生と死の中間にある町の道端で目覚めたのですが。
そばにいたのがノエという女性。
朝食の用意をしています。
いただいたのが白飯、アジの開き、だし巻き玉子、納豆、海苔、青菜のおひたし、味噌汁。
この味噌汁の味が俊太郎の好みにぴったりで、いつまでたっても冷めません。
どの料理も懐かしい味で美味しい。
もしかしてこのノエという女性は自分の母親ではないのか。
そんな思いまで抱かせます・・・・。
うん、まあ。
シリーズとして話全体が前に進んでいないのがなんともダレた気分になります。
毎回あの世とこの世のあいだの町に人がやってくる。
食堂つばめでメシを食べる。
もとの世に帰っていく。
これだけではね。
やはり物語全体が前に進んでほしい。
主人公(?)の柳井秀晴なんてもうこの町に居ついてしまっています。
それに対しての説明も、もはやなんらありません。
おいおい、現世での生活は大丈夫なのかよと。
ただ背景が「あの世とこの世のあいだの町」という設定だけで、ちょっとぬるま湯に浸かり過ぎではないでしょうか。
それぞれの話は決して悪いものではないんですけどね。
ラベル:グルメ本 小説
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『や』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする