2020年05月23日

「早春 その他」藤沢周平

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時代小説2編、現代小説1編、そしてエッセイという珍しい構成の一冊です。
表題の「早春」が時代小説の作家として知られる作者には珍しい現代小説。
5年前に妻を亡くし、娘の華江と二人暮らしの岡村。
華江は妻子持ちの男と付き合っています。
岡村は会社では窓際族、くたびれた建売の家はあと3年ローンが残っています。
妻の手料理が恋しく、立ち退きの話がある場末の和風スナックバー「きよ子」に通い、ママの清子に愚痴をこぼすような日々。
しかしある日いつものように「きよ子」に寄ってみると、灯りがついておらず真っ暗です。
しかたなく帰宅した岡村は華江から結婚するかもしれないという話を聞かされます。
付き合っている男がいよいよ妻と離婚を前提に別居したとのこと。
もし結婚して家を出るとなると、父親をひとり残すことになってしまいます。
そんなことに後ろめたさがあるのか、娘は「きよ子」のママに再婚を持ち掛けてみてはどうかといいます。
未亡人だという清子にまんざらでもない気持ちを持っている岡村ですが、だからといって声をかけてはいそうですかと話が進むものでもありません。
灯りが消えていた「きよ子」が気になる岡村は休日の昼間に店を訪れてみます。
向かいの店の女が言うには、どうやら店を畳んだようだと。
立ち退きの話は聞いていたものの、何も言わずにいきなり店を閉めるような人ではなかったはずなのに。
岡村は釈然としない気持ちになります・・・・。
なんともやりきれないようなリアリズムがありますね。
妻に先立たれ、職場では窓際族。
娘も結局は父親よりも付き合っている男です。
自分はこの家の相続権を放棄するので、再婚相手にそのように話を持ち掛ければいいとさえいいます。
まだローンが残っておりくたびれた家ではありますが、自分にとって勲章でもあるこの家をあっけなく「いらない」とはなんたる言い草か。
しかもかすかに期待していた「きよ子」のママも、実は未亡人ではなく旦那も子供もいたようです。
立ち退きにはさほど関心のない素振りをしていましたが、いちばんしつこくごねて高い立ち退き料を取ったのが「きよ子」のママだったとか。
やがて店は跡形もなく壊され、娘は初めての無断外泊をします。
いろいろなものが自分から去っていくんですね。
なんとも初老男性の寂しさ漂う一編です。
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『ふ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする