2009年12月31日

「石に泳ぐ魚」柳美里

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今年最後の1冊は柳美里の「石に泳ぐ魚」です。

これが小説デビュー作なんですね。

しかしその最初の作品でいきなりモデルとなった女性から訴訟をおこされ、最高裁において出版差止になったことは大きな話題となりました。

いかにも柳美里氏らしいといえば怒られるかもしれませんが。

内容はやはり私小説といえましょう。

主人公の梁秀香は劇作家。

韓国で自分の作品が上演されることになり記者会見のために向こうに行くのですが、騙されたような話の食い違いからドタキャンして帰国。

そのとき韓国で知り合ったのが朴里花。

(この朴里花のモデルとなった女性に訴訟をおこされるわけですが、それはまあ置いときまして。)

恋人である演出家の風元にはプライドを傷つけられ、カメラマンの辻の子供を中絶し・・。

日本に留学に来た里花は新興宗教に入信した友人を連れ戻すため一時韓国に帰国するのですが、ミイラ取りがミイラになってしまい彼女自身も入信してしまいます。

そんな里花を連れ戻すためまたもや韓国を訪れる秀香。

そこで秀香はつねに孤独と苛立ちを抱え他人を憎悪することによって自己防衛してきた自分にとって、里花は憎悪の対象にならない存在だと気づきます。

そんな里花が自分から離れようとしていく・・。

もうひとり憎悪の対象にならない存在として「柿の木の男」というのが登場するのですが、こちらはちょっと現実なのか幻なのかわからない存在です。

韓国に行く前に立ち寄った「柿の木の男」は廃屋のような家で息絶えていました。

秀香の愛情に対しての餓えが見させる幻だったのかとも思えます。

二人に去られた秀香はこれからどのように生きていくのか。

今後の他の作品と同じくヒリヒリするようなエキセントリックな苛立ち、その反面深く傷つき鬱的に落ち込む喪失感、崩壊した家庭環境からくる彷徨感、そういったものが息が詰まるほどの密度で書かれています。

私小説作家柳美里の慟哭が聞こえるようなデビュー作です。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 11:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 『ゆ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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