2010年03月29日

「女坂」円地文子

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時代は明治初期です。

主人公の倫の良人、白川は十歳年上の大書記官。

そんな白川が妾が必要と言い出し、倫が上京して妾を探してきます。

わざわざ離れをこしらえ、そこに妾の須賀を住まわせる白川。

女好きの白川はそれだけでは飽き足らず、やがて小間使いの由美や長男の嫁である美夜にさえ手をつけます。

良人との愛などなく、そんな行動に傍で文句も言わずにじっと耐え続け、ひたすら家を守ることだけに尽くす倫。

途中皆で芝居を観に行く場面があります。

出しものは「四谷怪談」。

伊右衛門が隣の娘お梅と恋仲になり、妻の美貌を醜くする薬を産後に効く薬だといってお岩に与え、正直なお岩はそれを信じておしいただくように飲み続けるのです。

その芝居を観て、良人の白川を伊右衛門に、伊右衛門を奪うお梅を須賀に、信じる夫に無残に裏切られ悪霊と変化していくお岩に自分を重ねます。

妻の情念がこもった怖い描写です。

しかし白川という男のために犠牲を強いられるのは倫だけではありません。

十五歳で生娘のまま妾に連れてこられた須賀。

世間のことは何もわからないまま歳を重ね、四十を過ぎてもう人生のやり直しはできません。

由美も同じく連れてこられたのは十六歳。

白川には須賀ほど思い入れが無かったらしく、いい歳になると都合よく嫁に出されます。

ある雪の日、外出からの帰りに倫は邸への坂道を登ります。

足の達者な倫はいつもなら問題ないのですが、この日は足が重い。

しかしこんな日に限って車が見当たりません。

雪の中をふらふらになりながら倫は坂道を登ります。

「歩かなければいけない。登りつづけなければ、決して坂の上に出られないのだ」と言い聞かせながら。

その後倫は寝込むことになります。

すでに倫は病に侵されており、目の前に寿命が迫っていたのです。

死を待つ床で口にする倫の最後の言葉は壮絶です。

何十年も良人や家のために自分の人生を犠牲にしてきたその咆哮は、怒りというよりもむしろ虚しさといえるのではないでしょうか。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 06:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 『え』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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