2010年05月16日

「土の中の子供」中村文則

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暴走族に向かって煙草を投げ捨てる主人公。

喧嘩を売っているわけですから当然主人公は追い込まれます。

ボコボコにされ、地面に這いつくばり、「殺す」などという彼らの言葉を聞きながら、土と同化するように死を感じ取ります。

あるいは飲んでいた缶コーヒーの缶を、住んでいる4階の部屋から落としたりもします。

その感覚に汗を滲ませ、呼吸が速くなり、心臓を打たれるような重みを感じます。

窓から入ってきてしつこくまとわりつく蚊。

テーブルに降りたその蚊に透明なグラスをかぶせます。

戸惑うように舞うグラスの中の蚊を見て、主人公は今の自分は神であるかもしれないと感じます。

なんといいますか、それらのエピソードから”力”というものを感じるのですね。

それは上下関係であったり自分でコントロールできないものであったり。

力ある者のない者にに対しての圧倒的な優位性、あるいは遠心力から解き放たれたコントロールの及ばない結果に対しての恐怖感。

そんなものを感じます。

主人公は子供の頃、養父母に虐待され、土に生き埋めされそうになった経験を持ちます。

土というのは主人公にとって生の前の場所であり、生の後の場所でもあるのです。

つねにそういう感覚を持ちながら精神不安定に生きる主人公。

自分は土の中から生まれたので親はいないといってのけるラストは、決して暗いものではありません。

併録されている「蜘蛛の声」もよかったですね。

やはりこれも蜘蛛との会話により、内面の葛藤を描いた小説です。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 05:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 『な』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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