物語は主人公の宗像滋子が病院で抜歯したところから始まります。
口の中には自分の歯が一本もなくなったと。
そしてそれ以前に右の乳を取り、子宮も無いことが語られます。
そこから滋子が記憶をさかのぼるという形で話は昔へ。
滋子の父は英文科の大学教授。
そして著名な演劇の指導者でもありました。
そんな父もやがて亡くなり、叔父夫婦に引き取られることになります。
やがて演劇の世界に入り戯曲なども書くようになる滋子。
左翼的な思想に揉まれたりプロレタリア演劇に惹かれたり。
いろいろな男が滋子の前に現れますが、結局は無神経で図々しいながらも自分のやりたいことをさせてくれそうな宗像と結婚することになります。
打算のある結婚ですね。
なんだかんだいいつつもやはり男と一緒にならないと生きていけない時代です。
当時の風俗を背景に女の生き方や性、恋愛などがみっちりと描かれています。
私小説を思わせるようなこの作品は「傷ある翼」、「虹と修羅」との三部作だそうです。
そのせいかこの「朱を奪うもの」だけを読むとどうも未消化で歯がゆい感があります。
宗像との結婚後どうなるのか、冒頭に至るまでの滋子に何があったのか、そして過去を振り返っている現在の滋子は。
後の二作もぜひ読まねばなりますまい。
ラベル:小説