山上龍彦(山上たつひこ)といえば「がきデカ」で一世を風靡したギャグ漫画家です。
その前は「喜劇新思想体系」、そのもひとつ前は「光る風」という代表作を残しておられます。
そんな作者が漫画家生活にいったんピリオドを打ち、小説家に転向したのが1990年。
これは初の短編集です。
表題作はいったん腰を落ち着けると1週間は動かないという長っ尻男が海外から帰ってきます。
ちょうど主人公たちが学生時代の仲間たちと恒例のパーティーを企画している矢先です。
学生時代に死ぬ寸前になるほど散々な目にあわされた主人公やその仲間たちは青ざめます。
あんな奴がパーティーに参加してきたらえらいことになる・・・・。
主人公たちの運命やいかに。
その他ぎっくり腰になった男が通勤のため必死に家から駅に歩き続ける「ロケットマン」。
娘に群がる男たちに神経をすり減らせる父親を描いた「秋刀魚日和」。
家の中の鉄道模型が悪夢のように自分を襲い、現実か非現実かわからなくなる「モ 300」。
近所に引っ越してきたあまりにも真っ当すぎる住民に苛立ちを覚える「隣人の華」。
誤って旦那を殺してしまった妻とその母親がうろたえながら証拠隠滅を謀る「突きの法善寺横丁」。
町内の機関紙に出身地の自慢料理を披露することになり、あわてふためく料理音痴の男を描いた「夢の宴」。
どれも穏やかな日常から加速度的に狂気へと誘うような内容はスラプスティックであり、ブラックなユーモアでもあります。
ただギャグ漫画家としての性でしょうか、肩に力が入りすぎているのか面白おかしく凝った(つもりの)言い回しがやや鼻につく気もします。
タイトルにもちょっと首をひねるのがありますし、そしてオチですね。
加速度をつけて展開したあとの着地点はやはりなかなか難しいものだなと思います。
ラベル:小説