短編集です。
五編収録されていますが、表題作の「花芯」が半分の枚数を占めています。
男性に対して奔放な女性を描いた作品です。
夫がいながらもその上司の越智に惹かれる園子。
しかしそれだけではなくいろんな男性と関係を持つようになります。
決して金を受取るようなことはしなかったのですが、初めて金を受取った老人から言われた言葉。
「私は世界もずいぶん歩き、さまざまな女をしっているつもりだ・・・・。しかし、きみほどの女はしらない」
その老人は園子の胸に顔を埋め、うわごとのように囁きます。
「かんぺきな・・・・しょうふ・・・・」
自分が死んで焼かれたあとも子宮だけがぶすぶすと悪臭を放ち、焼け残るのではあるまいかと園子が思うところでこの小説は終ります。
タイトルの花芯とは子宮のこと。
当時(昭和三十二年)は「子宮」などという言葉が露骨に使われているということで、瀬戸内氏は数年間文壇から干されたようですね。
それくらいインパクトのある作品だったのでしょう。
女の欲望や情念の象徴として子宮という器官を取り上げた生々しさ。
顔をしかめる人たちが大勢いたであろうことは想像できます。
私としましては最初に収録されている「いろ」という作品がよかったです。
るいという顔左半分に醜い火傷あとのある女。
現在は「備前町のお師匠さん」と呼ばれ、踊や長唄などの師匠をしています。
そんなるいが四十八歳のとき、銀二郎という十七歳の弟子を取ります。
るいは三十歳も年下の銀二郎を”いろ”(愛人)にし、銀二郎もるい以外の女は考えられなくなります。
今までさんざん蕩尽してきて名を馳せたるい。
有名な役者を片っ端からいろにしてきたるいです。
そんなるいの銀二郎を想う気持ちは壮絶です。
その気持ちは母親のようであり、一人の女としてでもあります。
銀二郎を一人前の男にするために犠牲を惜しみません。
お前さんだけは幸せにしてやりたい、人並みな結婚をさせなくちゃと。
それまでのあたしの女の命だとさえ言ってのけます。
銀二郎は初江という女と結婚するのですが、体を悪くして寝込んでいるるいのことが気がかりでしょうがありません。
やがてるいは孤独に息を引き取るのです。
銀二郎は腑抜けのようになり、初江は男とできて銀二郎名義の借金をしまくって高飛びです。
結局銀二郎も行方がわからなくなり、数年後暗い長屋で息を引き取ります。
畳もない荒むしろの上で。
駆けつけた弟の嫁である菊はつぶやきます。
「お師匠さんがお迎えに来なすったんですね」
激しすぎる愛の物語です。