小夜子は専業主婦。
あかりという三歳の娘がいます。
小夜子が内向的な性格の為か公園に行っても他のママとの交流ができず、あかりも他の子供たちと打ち解けて遊べません。
専業主婦をして家に閉じこもっているのがそれらの原因ではないかと思え、あかりを保育園に預け小夜子は働きに出ることにします。
あちこち面接を受けたのですがどこも不採用。
やっと採用されたのが葵という女社長の経営する小さな旅行会社「プラチナ・プラネット」。
面接で小夜子と葵は同い年で同じ大学だったことがわかり、意気投合しての採用となったのです。
旅行会社といっても小夜子が採用されたのは立ち上げたばかりのハウスクリーニング部門。
小夜子はそれでもかまわないと仕事を始めます。
小夜子の現在と葵の高校生時代の視点が章ごとに入れ替わり、話が進んでいきます。
なぜ葵の現在の視点ではなく高校生時代なのか、読んでいてちょっととまどってしまいます。
どちらかというと楽天的でとりあえず前進するタイプの女社長である現在の葵と、学校で友達に溶け込めず登校拒否していた葵が重ならないのです。
そんな高校生時代の葵にもナナコという唯一の友達ができます。
葵の過去の話はこのナナコとのつながりが丁寧に描かれます。
これが現在の小夜子と重なって見えてくるんですね。
仕事にも慣れ始めた小夜子は葵のことを信頼し、彼女とならなんだってできるような気がしてきます。
しかし夫も幼い子供もいる兼業主婦の小夜子と、独身で会社を経営している葵とは立場が違う。
小夜子と葵の間にだんだんと溝ができ始めます。
そして小夜子はふとしたきっかけで葵の高校生時代のある「事件」を知ることにもなります。
やがて小夜子は会社を辞めてしまうのですが・・・・。
しかしだんだんと本当の葵の姿が見えてくるのです。
現在は女社長をやっておりあっけらかんとした振る舞いの葵ですが、決してそんなお気楽な人生を送ってはこなかったこと。
周りに理解されず自分と同じくずっと「どこか違う場所」に行きたいともがいてきたこと・・・・。
そしてあんな「事件」まで起こしてしまったのだと。
もう一度やり直そうと葵の元に戻った小夜子は、彼女の部屋の片づけをしながら一枚の手紙に気付きます。
見てはいけないと思いつつ目を通した手紙は、ナナコが葵に宛てた高校生時代のものでした。
小夜子の頭の中に鮮明な景色が浮かび上がるのです。
夏の日。
川の向こう岸を歩く制服姿の葵とナナコ。
小夜子に向かって手を振り、なにか言いながら駆け出します。
そんな「対岸の彼女」たちに小夜子も手を振りながら、向こう岸とをつなぐ橋に向かって駆け出します・・・・。
自分は何者なんだろう、何をしたいのだろう、どこに行きたいのだろう。
そんな疑問、不安、焦燥感といったものがよく描かれていると思います。
大人な現在の視点だけではなく、葵の視点を思春期の高校生時代に置いたのもなるほど実に効果的です。
ふっきれて何かが見つかったような晴れやかなラスト。
「対岸の彼女」というタイトルもいいですし、「プラチナ・プラネット」という社名に葵が込めた思いもけなげです。
第132回直木賞受賞に不満のない小説でした。