2010年10月11日

「沖で待つ」絲山秋子

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短編三編収録。

表題作はタイトルと表紙の写真からして海で働く人たちの話かと思っていたらぜんぜん違いました。(笑)

主人公は及川さんという女性。

東京の大学を出て住宅設備機器メーカーに就職します。

その会社で同期となった太っちゃんという男性と福岡に赴任することになりました。

普通ならその二人の恋愛話になりそうなものですが、そうはなりません。

お互い上手く気持ちを伝えられず他の異性と付き合ってみたりしながらも虚しさを感じたり・・・・と他の恋愛作家なら書きそうなものですが、女と男の友情の物語となるあたりが絲山秋子。

そして作者の経験によるという職場や業界内の描写も作品を地に足が着いたものにしています。

太っちゃんは同じ会社の先輩と結婚し、やがて及川さんは埼玉に転勤となります。

そして数年後、東京に単身赴任で転勤となった太っちゃんと再会し、飲みながらこんな話をします。

「おまえさ、秘密ってある?」

「秘密?」

「家族とかさ、恋人とかにも言えないようなこと」

「エッチな下着とかかなあ」

「そりゃ見せたいもんだろ」

「あんたには見せんよ」

冗談なやりとりに二人の間柄が伺える会話です。

しかし太っちゃんはあまりのってこず、一番やばいのはパソコンのハードディスクだというのです。

もし自分が死んだ後、パソコン内にあるプライベートなデータを見られるのがいやだと。

お互い意見が一致し、二人は協約を結ぶのです。

先に死んだほうのパソコンのディスクを残った一人が破壊する。

そして二人は後日お互いの家の鍵のコピーを交換します。

太っちゃんの死は突然でした。

マンションでの飛び降り自殺の巻き添えとなったのです。

及川さんはすぐに約束を果たします。

太っちゃんの家に行き、パソコンをこじ開け涙を流しながらディスクに傷をつけ、太っちゃんに別れを告げるのです。

数週間後、及川さんは会社の先輩と太っちゃんの奥さんの実家へ挨拶にいきます。

そこで奥さんから見せられた大学ノートに書かれていた下手くそなポエム。

その中に「沖で待つ」という言葉があるんですね。

及川さんは妙にその言葉が心に残るのです・・・・。

それだけの話です。

それだけの話なんですが、なんとも惹かれるものがあります。

「沖で待つ」という言葉もタイトルに使われているからでしょうか、読者としても心に残るインパクトがあります。

パソコンのハードディスクを壊してくれなどといいながら、恥ずかしい下手くそなポエムのノートを残して逝ったドジな太っちゃんのキャラクター。

約束を健気に果たした及川さんの友情。

ファンタジーな後日談。

せつなくほろ苦く、でもほっと心が和む小説でした。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 09:17| Comment(7) | TrackBack(0) | 『い』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
たろちゃんさんの感想・紹介文を読んで、
じんわりと作品世界に漂う哀しい香りが想われました。
けれども、読んだ気になってしまってはいけませんな。
すぐに本作を読もうと想います。
ところで、自身もパソコン内を探られるとアウトです・・。
(9月の一冊「対岸の彼女」良かったですよ)
Posted by 鹿の子 at 2010年10月12日 08:23
はじめまして。ホームページで本などのレビューを書いています(サイト名は極私的本楽生活(ごくしてきほんがくせいかつ)と言います)。アドレスはこちらですhttp://www.ne.jp/asahi/behere/now/

自分も里見真三さんの本、『すきやばし次郎 旬を握る』のレビューを書きました。よかったら読みに、ホームページ遊びに来てください。あと、自分のホームページと相互リンクしてもらえないでしょうか。たろちゃんさんの都合がよかったら、よろしくお願いします。

それにしても、ざっとですがレビュー読ませてもらいましたが、早瀬圭一さんも早川光さんも新津武昭さんの本もパッチリ読まれているんですね!おみそれしました(笑)
Posted by だいすけ at 2010年10月12日 17:39
「沖で待つ」読みました。
ゴースト・ストーリーの趣もありつつ、
そんな非現実さに物語が崩れない。
きっちりと社会生活の細部がとらえられていて、
職場関係のリアリティのある描写などは巧いなぁ・・と感心しました。
のほほんとした語り口ながら、いい加減さがない。
いい余韻を残してくれる佳品でした。
Posted by 鹿の子 at 2010年10月12日 18:16
だいすけさん。
寿司関係の本がお好きなようで?
私も食べ物関係の本は好きでして、寿司に限らず目に付いた本を購入して読んでいます。
Posted by たろちゃん at 2010年10月13日 12:33
鹿の子さん。
すごい。
さっそく「沖で待つ」読まれたんですね。
ちょっと短くあっけない作品ではありますけども。
私は心に残りました。
Posted by たろちゃん at 2010年10月13日 12:37
たろちゃんさん、こんばんは。はい、お寿司屋さんにはめったに行けませんが(笑)、お寿司関係の本は大好きです。自分は早瀬圭一さんの「鮨に生きる男たち」を読んでから色々お寿司の本を読むようになりました。レビューをあまり見かけなかったので、たろちゃんさんが感想文を書かれていたのでうれしかったです。

色々知らない食べ物関係の本をたくさん見かけたので読むときの参考にさせてください♪
Posted by だいすけ at 2010年10月13日 22:12
だいすけさん、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
Posted by たろちゃん at 2010年10月18日 15:00
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