時代は幕末から明治にかけての動乱期です。
主人公のゆうは遊女屋の娘。
なのでつねに周りには花魁たちがおり、それを目当てに来る男衆たちも目の当たりにしています。
九つのときゆうは垢離場と呼ばれる東両国回向院前の広場につれていかれます。
見世物の掛け小屋や大道芸、おででこ芝居などがある場所です。
そこで迷子になってしまうのですが、ある芝居小屋の舞台を覗き、雨も降ってきたのでその小屋の楽屋に飛び込み雨を避けます。
入り口の土間には七輪にかけた大根煮の匂い。
雨なので小屋の片付けが始まり、そのとき小屋の舞台に出ていた役者が箸に刺した大根をゆうに与え、肩を軽く叩き、小屋を出ていきます。
役者の福之助でした。
それ以来ゆうは福之助のことが忘れられなくなるのです。
遊女屋の娘に生まれたゆうは、つねに心の中に寂寥感を抱えてきました。
花魁たちの苦労や痛みの上に自分たちは生活している。
自分が笑うために誰かが泣いている、と。
父が小職としてい買い取ってきて妹のようにかわいがっていたきつという女の子が、この商売のために殺されたりもしました。
ゆうはこの商売に自分は向いていないと、勘当状態になりながらも福之助のそばに寄り添います・・・・。
遊女屋の娘として生まれた主人公の心の葛藤と恋愛をみっちりと描いた小説です。
それを柱にゆうが心を寄せる旅役者である福之助の芸にかける情熱も描かれ、この小説を非常に厚みのあるものにしています。
主人公ゆうの生き様、役者福之助の生き様、そして花魁たちの生き様。
それぞれが実に味わい深く描かれており、読み応えのある作品として仕上がっています。
ラストにちょっと作者の主観が出すぎた部分がありますが、しかし相当な力量を感じさせる見事な小説だと思います。
ラベル:小説