主人公の京は40代。
12年前に夫の礼が失踪して、中学生の娘の百、そして母親との3人暮らしです。
礼は日記に「真鶴」という言葉を残していました。
京には現在青磁という妻子ある恋人がいるのですが、いまでも礼のことを引きずっています。
そんな京の雰囲気を青磁は敏感に感じ取っています。
憑かれたように何度も真鶴に通う京。
そこにはこの世の者ではない「ついてくる女」がいるのでした・・・・。
現実と妄想のあいだを彷徨っているような、つかみどころのない小説です。
ひらがなを多用したり抽象的な表現を散りばめたりといった文体が主人公の心理状態をあぶり出し、現実から物語を浮遊させているような印象も受けました。
「ついてくる女」がある意味主人公の代弁者でありガイド役とも言えます。
夫の礼はなぜ失踪したのか、現在はなにをしているのか。
生きているのか死んでいるのか。
答えは一切ありません。
視線はずっと主人公である京の心の中です。
「ついてくる女」も京の心が見ているものです。
ホラーな要素もあると言えば語弊があるでしょうか。
ひたすら精神不安定な主人公を描写した小説なんですよね。
読者は主人公の視線になりますから、そんなに異常とは思わない。
でも「ついてくるものがあった」という出だしてすでにホラーなわけです。(笑)
しかし夫に何の理由もなしに失踪され、青磁という恋人にも去られようとするそれはまさに現実なわけで、そこに幻想が加わるので上に書いたように「現実と妄想のあいだを彷徨っているような、つかみどころのない小説」となるわけですね。
いかにも川上弘美らしい作品だと思います。
ラストには光が差します。
曇天の隙間から陽が差し込むようなラストです。
ラベル:小説