大学の工芸研究室に勤め、染織を勉強している瑞子。
四谷で生まれ育った瑞子は早くに両親を亡くし、現在は下宿を営んでいる叔母のたまきと暮らしています。
そこに下宿していたのが近江からシナリオ作家を目指して上京した大室潮。
二人は付き合うようになり、瑞子は妊娠してしまいます。
旧家である潮の実家に嫁入りする決心をし、瑞子は潮と近江に旅立ちます。
しかし姑には疎んじがられ、なかなか大室家に溶け込むことができません。
潮には玲という結核を患い余命いくらもない兄がいるのですが、口数少なく皮肉ばかりのそんな玲が瑞子の感性に触れるものがあったのか、家族よりも打ち解けた接し方をするのです。
瑞子もそんな玲の死を目の前にしながら毎日琵琶湖を見つめ続ける生き様に惹かれるものを感じます。
やがて玲は他界し、夫の潮とも彼の背信が原因で離婚。
瑞子は子供を道連れに自殺を図りますが一命を取り留めます。
そしてもう一度与えられた人生を仕事に打ち込む決心をします。
東京に戻ってからもつねに深い湖の底に眠る玲を意識しつつ、湖の青い美しさを染物や織物で表現したいと思い続ける瑞子。
仕事と愛娘の櫻子を支えに、そして仲間に励まされながら力強く生きていきます。
未熟ながらもひとつひとつ作品を仕上げ、展覧会での入賞も果たしていき・・・・。
最初はやや地味ですが、瑞子が近江に嫁いでから物語りは動き始めます。
やはり玲の存在が前半の大きな鍵ですね。
玲によって湖の神秘的な魅力に魅せられ、それが後半の瑞子の生きがいともなっていくのですから。
そして浜尾という理解者を得、最後は離婚や自殺未遂、玲の呪縛からも解き放たれることを示唆して物語は終ります。
やはりこのようなモチーフを扱わせるとさすが芝木好子と思わせられますね。
芝木文学をじゅうぶんに堪能できる長編作品です。