短編集です。
直木賞を受賞した表題作は、葛西馨之介という武家が主人公。
いつ頃からか周りが馨之介を避けているような気配があります。
その視線には愍笑が含まれているのです。
あるとき道場の同門である貝沼金吾から家に誘われます。
もともとはお互い家を訪ねあった仲なのですが、金吾もやはり最近は馨之介を避けていました。
そんな金吾の誘いに家へいきますと、金吾親子の他に三人の武家がいました。
そこで馨之介は中老の嶺岡兵庫暗殺の依頼を受けます。
馨之介はきっぱりと断るのですが。
馨之介の父親はあるお偉方を暗殺しようとして失敗し、横死しているのです。
どうやらその相手が嶺岡兵庫だったことを知ります。
本来なら家はお取潰し、馨之介や母の波留の命もどうなったかわかりません。
しかし五十石減らされただけで済んでいるのです。
なぜか。
母の波留が馨之介の命を守るため、嶺岡兵庫に体を売ったことがその理由だと知ります。
これで馨之介は皆の自分を見る目の意味を悟りました。
馨之介になじられた波留は自害します。
嶺岡兵庫暗殺を引き受ける馨之介。
しかし・・・・。
武家の悲哀を現代のサラリーマンに重ねるのはちょっと大げさか。
しかし下の人間が上に振り回され踊らされるのは昔も現在も変わらないでしょう。
切ない話です。
デビュー作の「溟い海」が私はよかったですね。
主人公は絵師の葛飾北斎。
下り坂になってきた自分に対して、頭角を現してきた歌川(安藤)広重。
北斎の老い、それに伴う焦燥、若い才能への嫉妬が描かれています。
その他の作品も実に濃い。
バラエティのある短編集でした。
ラベル:時代小説
玉兔さんの『こころtoこころ』という小説も、わたし自身が好きなので、いつか読んでいただけたらなと思います。心理モノで、硬質な雰囲気で、薄い本ですが読み応えあると思います。
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