時代は大正。
松橋富治は二十五歳。
マタギを生業としています。
といっても組ではまだいちばんの下っ端です。
厳しい自然の山中でアオシシやクマを狩る毎日ですが、ある日地主の一人娘文枝と知り合い夜這いをかけます。
それがきっかけで恋仲になるわけですが、貧しい家庭の富治と地主の娘では立場が違います。
密会を重ねるうちに文枝が妊娠。
富治は村を追われ、マタギから足を洗うことに。
鉱山で働いていたのですが、やはり自分はマタギとして生きていくしかないと決意します・・・・。
いやあ、ごつい小説ですね、これは。
マタギの生き様、動物や自然との関わり、山の神様への敬虔と畏怖。
まるで自分が厳しい雪の山中にいるような気さえします。
マタギの仕事なんて私にとってはもちろんまったく未知なわけですが、わからないなりにもここまでよく描いたものだと感服です。
主人公のマタギとしての生き様を柱に、妻イクとの寄り添いもいい。
マタギの女房として実にしっかりと脇を固めています。
ラストのヌシと呼ばれるクマとの死闘は壮絶です。
圧巻の500ページですね。
史上初の直木賞、山本賞ダブル受賞とのこと。
お互い牽制しあっている賞なので普通どちらも受賞ということはないんですけど、この作品ならばそうせざるを得ないでしょうね。
どちらもこれは無視できない。
他に有力な作品がなかったのかもしれませんが(笑)、やはり候補作の中で抜きん出ていたということでしょう。
文学の力というものを強く感じさせてくれた小説でした。
ラベル:小説