『その夜わたしは人を殺しに車を走らせていた。』
そんな出だして読者を掴みます。
ではこの小説はミステリーかサスペンスか。
そのどちらでもあり、どちらでもないんですね。
だって佐藤正午の作品ですから。
人を殺しに車を走らせていた主人公ですが、突如停電により街が暗闇に覆われます。
その間に目的の人物はすでに殺されていた・・・・。
構成が非常に凝っています。
出だしのわりにはそれに関しての記述がありません。
いったいその話はどうなっているんだと、途中までまったく先が見えないんです。
主人公の思考も現在と過去が入り乱れ、丁寧に読んでいきませんと置いていかれます。
しかしじわじわとパズルのピースを埋めていくように物語が見えてきます。
主人公が小学校の教師というのもなんだかいいですね。
痛い目に合わされながらもいつまでもずるずると女の魅力に引きずられてしまう男です。
そしてミステリーでありサスペンスでありハードボイルドであり恋愛小説でもあり。
いまさらながら上手い作家だなぁと思います。
そのあたりの器用さが逆にどの角度からも評価されない理由になっているんですかね。
直木賞取ってもおかしくない作家なのに。
しょーもない作家に賞を与えてもてはやす前に、このような作家をしっかり評価しろよ文壇。(笑)
ラベル:小説