短編3編収録。
表題作の「切れた鎖」がページ数の半分以上を占めています。
昔、海辺の村で栄えた『桜井の家』。
コンクリートで財をなしました。
しかし今はその繁栄もありません。
その桜井の家の女である梅代は、出戻りの娘美佐子と孫の美佐絵と3人で暮らしています。
家の裏にはいつの間にか建った在日朝鮮人の教会があります。
昔、養子の夫がその教会にいた女と深い仲になり家を出ていき、それ以来ずっと教会を憎悪しながら、現在は娘、孫娘との生活を営んでいます・・・・。
他の収録作もそうですが、どれも暗いですね。
曇天のイメージです。
そしてシュール。
作者の田中慎弥氏といえば、芥川賞受賞式で「もらっといてやる!」と不機嫌に言ってのけたことで一躍有名になりました。
今回氏の作品を初めて読んでみたのですが、ちょっと予想外。
暗いだろうなとは思っていましたが(笑)、このようなシュールな作品を書かれていたとは。
「蛹」など地中のかぶと虫の幼虫の視点で書かれています。
「不意の償い」は被害妄想のオンパレードですし。
読んでいてふとイメージしたのが中上健次、中村文則、西村賢太といったところ。
いちばん遠いのは西村賢太でしょうけど。
この不穏で鬱屈したような作風は貴重ですね。
他の作品もぜひ。
ラベル:小説