2014年11月02日

「8月の果て(上・下)」柳美里

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主人公の李雨哲は作者の祖父です。

日本に統治されていた朝鮮の密陽で、マラソンでの五輪出場を目指していました。

しかし1940年の東京オリンピックは幻となり、出場することはできませんでした。

もし出場すれば確実にメダルを取れたほどのランナーです。

雨哲は既婚者にもかかわらずあちこちの女に手を出し、次々と子供を産ませます。

そして弟の李雨根は左翼活動にのめり込んでいきます。

動乱の朝鮮で雨哲はどのように生き抜いていったのか。

そして弟の雨根は・・・・。

上下巻合わせて1000ページを超える大作です。

日本統治下における朝鮮人の生活が痛々しく描かれています。

だからといって日本の過去を糾弾している小説ではありません。

ありませんが、こういうのを突きつけられると言葉に詰まります。

騙されて慰安婦にされた少女の章などはたまりませんね。

李雨哲(イ・ウチョル)という朝鮮名があるにもかかわらず国本雨哲(くにもとうてつ)と名乗らざるを得なくなった、走ることがすべてだった男の人生。

そんな男と弟が生きた時代。

そんな男を祖父に持った作家の物語です。

ひたすら「すっすっはっはっ すっすっはっはっ」という言葉が繰り返されます。

内容がマラソンならそれを書いた作者もマラソン、それを読む読者もマラソンです。

しかしくどいほどに挿入されるこの「すっすっはっはっ すっすっはっはっ」が非常にリズミカルで心地よい。

そして戯曲形式だの歌詞だの日本語と朝鮮語を混在させたりだの、あらゆる手法が使われて物語は進行していきます。

ただちょっと作者の思いが激しく筆が走り過ぎ、手綱を捌き切れていない感はありますけども。

ひたすら涙を流し血を流し走り続け、最後の言葉が「自由!」。

私たち平和な国の日本人が当たり前に享受しているこの言葉のなんと重みのあることか。

柳美里、渾身の作品です。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 04:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 『ゆ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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