第146回直木賞受賞作。
城内で刃傷沙汰をおこした檀野庄三郎。
相手の水上信吾は家老の中根兵右衛門の甥です。
本来なら切腹となるところですが、向山村に幽閉中の元郡奉行である戸田秋谷を監視するという役目を与えられます。
秋谷は七年前に側室と密通し、それに気付いた小姓を切り捨てたということで切腹を命じられています。
ただし十年後。
それまでに家譜編纂を終えるのが役目です。
切腹までにあと三年。
秋谷が切腹を恐れて逃げ出さないか、もしそのときは監視役の庄三郎は秋谷だけでなく家族ともに斬らねばなりません。
しかし身近で秋谷に接していくにつれ、庄三郎は秋谷の無実を信じるようになります。
その凛とした生き様はとても側室と密通するような人物ではありません。
なんとか秋谷の切腹を回避することはできないものかと庄三郎は思い始めます。
そして真実はどうなのか・・・・。
いやぁ、よかった。
やはり秋谷の姿勢ですよねぇ。
三年後に切腹という絶望があるにも関わらず、秋谷の姿勢にはまったく揺らぎがありません。
その日が刻々と迫ってきても。
なんと清冽なことか。
そんな秋谷に仕える妻の織江、そして娘の薫、息子の郁太郎。
夫を信じ父を誇りに思う家族の気持ちのなんと静かに、しかし深く熱いことか。
現在ではあり得ない武士の生き様。
男の生き様とも言えます。
こういうところに時代小説の魅力のひとつがあると思えます。
切腹はともかくとしても、これを現在のサラリーマン社会に置き換えてこのような物語は書けないでしょう。
いくらフィクションとはいえ、現代小説でこのような人物は描けませんもんね。
時代小説ならではの魅力をじゅうぶんに味わえるいい小説でした。
ラベル:時代小説