『木村の前に木村なく、木村の後に木村なし』
あまりにも有名なこの言葉が柔道家・木村政彦の強さを表しています。
柔道において15年間無敗で全日本柔道選手権を13年間保持したという伝説の人物です。
そんな木村がプロレスラーに転向し、当時プロレス界でスターだった力道山とどちらが強いのか世紀の一戦として試合することになります。
ですが試合は力道山の一方的な攻撃の前に木村がなすすべもなく崩れ落ちてしまうのです・・・・。
木村政彦という最強の柔道家の半生を描いた渾身のルポタージュです。
まさに渾身という言葉が当てはまる作品ですね。
木村の少年時代から師匠である牛島辰熊との出会い、人間離れした猛烈な練習の毎日、その結果得られた異様ともいえる肉体と圧倒的な強さ。
プロ柔道の立ち上げからプロレスへの転身。
そしてこの作品のメインである力道山との試合。
無残に敗れた木村のその後。
著者は時間をかけて丁寧に取材を重ねておられます。
その結果今まで明らかになっていなかったいろんな事実さえもつきとめておられます。
タイトルからもわかるように著者のスタンスはあくまでも木村側です。
力道山との試合については、筋書きがあったにもかかわらず試合中に力道山が一方的に約束を破り不意打ちのような攻撃を仕掛け、木村を倒したというのは明らかな事実です。
しかし最初から真剣勝負として試合していればどうだったのか。
著者は何人ものプロ格闘家に取材しVTRを観てもらい当然木村が勝っていたという言質を引き出そうとしますが、思うような答えが返ってこず自身の客観性のなさがあったことも吐露しておられます。
たしかに当日の木村のコンディションはよくなかったようですね。
明らかな練習不足もありますが、筋書きがあり最初から試合結果が決まっているのですからなにも真剣に取り組む必要もない。
ところが力道山はみっちりと練習して体を作ってきていたようです。
契約の時点から胡散臭い行動を取っていた力道山は、はなっから真剣勝負を仕掛けるつもりだったのでしょう。
木村は力道山の狡猾さに敗れたのです。
ですがもし最初から真剣勝負という前提であったなら、しかも木村全盛の時代であったなら。
とても木村が負けるとは思えません。
あとでどうこう言っても詮無いことですが。
この試合後の木村も著者はしっかりと描いておられます。
不世出の柔道家の記録として、実に読み応えのある力作でした。