2020年07月06日

「爆心」青来有一

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長崎を舞台にした短編集です。
タイトルからもわかるように長崎を原爆の被害地として捉えています。
といっても生々しく被爆を描いた作品ではありません。
むしろかなり間接的に描かれています。
例えば最初の「釘」という作品は、天主堂の見える“祝福された土地”に住む老夫婦が主人公。
結婚した息子が精神を病んで大きな罪を犯してしまい、老夫婦は先祖が頑なに信仰を守って暮らしてきたこの土地を手放さなくてはならなくなるという話です。
「蜜」という作品はちょっとエロティック。
人妻が近所の自転車屋の青年を誘惑するという話。
カトリックの家系でマリア様を祀った祭壇のある家に夫の両親と同居してる私。
自転車を修理に出し、しゃがみこんでさりげなく青年にスカートの中を見せたりします。
そして平和祈念式典で両親が出かける日。
医者である夫も勤務で家にはいません。
私は青年を家に誘います・・・・。
これもやはり直接被爆について書かれた話ではありません。
なのでどれも被爆小説ではなく、被爆地小説なんですね。
過去に凄惨なことがあったこの土地。
しかし生き延びた人たちはこれからも生きていかなければなりませんし、時間は流れ続けています。
生活していく中ですべての人が四六時中被爆被爆とは言ってられません。
何年も経ち、やがて被爆を知らない世代や他所から来た人たちも住み始めます。
過去に原爆を落とされたというこの土地で、人々はいろんな生活をしているわけです。
そして爆心地であるここは浦上天主堂があり、カトリック信者の多い土地。
そんな中で「釘」のように罪を犯してしまう人がいます。
「蜜」のように大勢の人たちが原爆投下の日時に合わせて祈りを捧げているときに、不義を働こうとする人もいます。
原爆の悲惨さを決して忘れ去られることなく真正面から訴えていくのはまさしく正道。
ただそれと並行して、そんな土地でもいろんな人間がいろんな人生を営んでいるんだと書く小説もまたあり、でしょうか。
ラベル:小説
posted by たろちゃん at 01:00| Comment(0) | 『せ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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